いかがわしい場所だから立ち入らないように――そう言っていたのは、学校の先生だったろうか。
 広めのホールは、陽気な声で溢れていた。早めに仕事を切り上げた大工が、盛大な掛け声と共に、陶製のビアジョッキを突き合わせる。
「あ、これ美味しい」
 じゃがいもの炒め物を口に入れ、フレデリカが目を丸くする。
 フレデリカは、クレーエと外来の商人モレクに連れられて、大通りに軒を連ねる大衆酒場へとやって来ていた。
「私たちまで呼ばれて、本当に良かったんですか? 邪魔だったんじゃ」
「そ、そんなことは決して。すんなりと事が進んだのは、あなた方のおかげですからね。私も、ず、随分と儲けさせていただきました」
 フォークを咥えたフレデリカが、遠慮がちに尋ねると、ステーキを切り分けていたモレクが顔を上げ、歯を見せて人懐っこく笑った。
 オスティナトゥーアとオスカー商会を巡る騒動は、商会の主であるオスカーが誓約書に署名することで、一応の終息を見せた。ざわついていた都市は、早くも何事も無かったかのように、日常へと戻りつつある。
「……あんな形で、きちんと解決になったんでしょうか」
 思わず口を吐いたフレデリカの問いに、モレクは思案げに目を細めた。
「そうですねぇ……。これが最良の結末かと問われれば、私には何とも言えませんが――なにより、あれだけのことがあって、死人が一人も出なかったことは、幸いと言うべきでしょう」
 言って、モレクは微かに頬を引きつらせた。
 酒場のテーブルの下に倒れていた巨漢――オスカーの用心棒の毒刃に倒れたという彼の仲間は、その後の措置で辛うじて命を取り留めた。今は第一階層の総合病院で、治療を受けている。
「か、考え出せば、最悪の結末は幾らでも想像出来ます。こうして美味しく食事が食べられるだけで、良しとしなければ」
 口いっぱいにステーキを頬張り、モレクが微笑む。
じゃがいもの炒め物をスプーンで潰しながら、フレデリカは「そんなものなのかな」と首を傾げる。フィーネのことを考えると、いろいろと思う所があるものの、大局的に見れば、モレクの言う通り悪くない終息の仕方だったのかもしれない。
「い、一時はどうなるものかと肝を冷やしましたがね。……こうして収まる所に収まったのは、やはり、あのお譲さんのお陰なのでしょうねぇ」
 モレクは丸い目を動かして、隣のテーブルに座るジブリールを見た。人の良さそうな丸顔には、心からの安堵と共に、微かな警戒の色が見え隠れしている。フレデリカの視線に気付くと、はっとしたような顔になり、ぎこちない笑みを浮かべ、
「も、もちろん、君たちのお蔭でもありますよ。特に、リオくんが居なければ、都市の方々が彼女の提案に納得したかは解りませんでしたからね……ささ、好きなものを頼んでください。支払いは全て私たちが持ちます」
 仔牛肉のシュニッツェルが載った皿を勧めるモレクに、「ありがとうございます」とリオが愛想笑いを浮かべる。その手は、目の前のスープ皿にかかっているものの、スプーンはさっきから動いていない。
 彼の視線の先にあるのは、隣のテーブルに座るクレーエとジブリール。二人は、それぞれ酒と肉を手に、賑やかに言葉を交わしていた。
「っはぁ――! これで万事解決だ。都市を駆けずりまわった甲斐があった」
「ええ。これでひと段落ですね。神の御加護があればこその勝利です」
 ジョッキを手に上機嫌に笑うクレーエの横で、ナイフを手にしたジブリールが、澄まし顔で微笑む。
「……すんごく上機嫌ね。あんな人だったとは知らなかったわ」
上機嫌に笑うクレーエに、フレデリカが呆れたように言った。
「あはは。そうだね。僕も意外だったかも」
「安心されたのでしょう。この半年、随分と気を張っていたようですから」
 耳聡く聞きつけたモレクが、頬をたるませて笑う。
「安心したくらいでああなるものかしら? 『気を張ってた』って、あの人、何してたんですか?」
「主な仕事は、情報収集と身辺警護といった所でしょうかね。オスカーを追いつめるまでには、いくつか障害がありましたが、中でも〈狂骨〉と呼ばれる用心棒が厄介でして。クレーエさんが抑えていてくれなければ、私たちもオスカーを追いつめることは出来なかったでしょう」
「ふぅん……用心棒、ね」
 〈狂骨〉――クレーエと一戦を交えたと言う用心棒の姿を、フレデリカは実際に見ていないが、大体の想像はつく。恐らく、昨日路地裏で出くわした、体中に黒革のベルトを巻き付けた、あの異様な男のことだろう。
 耳朶に染み込む、冷たい声が蘇り、思わず身震いする。
 どこか不吉な気配をまとうクレーエも好きでは無いが、あの男は別格だ。とにかく怖い。傍に立たれるだけで、底の見えない、真っ暗な崖の縁に立たされている様な、そんな心細さを感じる。
 もぐもぐと、じゃがいもの炒め物を頬張りながら、フレデリカはそっとクレーエの横顔を盗み見た。いつものピリピリとした雰囲気とは打って変わって、楽しげに笑っている。陰気な影を背負って、不機嫌そうに歩いている姿しか見たことが無いから気付かなかったが、思っていた以上に若い。さすがに、十代ということは無いだろうけれど。
「そら、どうした。遠慮せずに呑め。俺からの礼だ」
 ビールを一気に喉に流し込んだクレーエが、隣に座るジブリールの背中を叩きながら、運ばれて来たジョッキを、ジブリールへと押しつける。背中を叩かれてむせたのか、ジブリールは一瞬、咳き込むように口許を抑え、
「うふふ。気安く触らないでください。ぶっとばしますよ」
 いつもの天使の笑顔で言って、ジョッキをクレーエの方へと押し返した。二人の手の間にあるジョッキが、テーブルの上でギチギチと音を立てる。
「楽しそうだね。二人とも」
「……そうかしら?」
 真剣なリオの呟きに、フレデリカは目を細めた。
 二人の間を流れる空気が邪悪なものに感じられるのは、気のせいだろうか。最初こそ、容姿の目立つジブリールへと集まっていた周囲の視線も、今はどこか余所余所しい。
「はっはっは、人を浮浪者呼ばわりするわ、待ち合わせには来ないわで、次会ったら、蹴り倒してやろうと思ってたんだがな。無事に商談が成立したことだし、見逃してやる」
「ふふふ、やれるものならやってみなさい、臆病者。それと、世間ではああいうのは商談ではなく恐喝と言うのですよ」
「……いいなぁ。二人とも」
 物憂げに息を吐くリオに、フレデリカは椅子の間隔を離しながら、
「あんた、ああやって罵られるのが羨ましいの? ……そういう趣味?」
「ち、違うよ! 何さ、そういう趣味って!」
「どうした、お前ら。しっかり食べてるか?」
 陽気な声に顔を上げると、クレーエが緩んだ顔でニヤニヤと笑っていた。いつもは、幽霊みたいに陰気な空気を背負っているだけに、明るく微笑む姿は、正直、少し気持ち悪い。
「お前らは、いつ見ても仲がいいな」
「どこがよ!」
テーブルを叩いて立ち上がったフレデリカが、眦を吊り上げる。クレーエは、はん、と小馬鹿にしたように鼻で笑って、
「なんだ。ムキになるなよ。そんなおっかない顔してると、人生損するぜ?」
「……あんただけには言われたくないわ」
 いつもぴりぴりした空気を漂わせて、都市の人を怖がらせていたのは、どこのどいつだ。フレデリカが顔を背けると、クレーエは何が楽しいのか、肩を揺らしてくつくつと笑っって、
「からかって悪かったよ。フレデリカ。まぁ今日は遠慮せず、たくさん食え。俺たちからの礼だ。商談もそうだが、リオにはこの半年、何かと世話になったからな」
「……世話?」
「ああ。小屋の前に毎日食べ物を運んでたの、リオ。お前だろ?」
 クレーエがフォークの先を向けると、リオが「あっ」と小さく声を上げた。
「へぇ……何度も忠告して上げたのに、あんたってば、少しも聞いてなかったのね」
 フレデリカのヘイゼルの瞳が、冷たく剣呑な光を宿す。
「毎日、町はずれまで、自分の分の食べ物を運んでたの? 童話に出てくる動物達より健気ねぇ、リオ?」
「あは、あははは」
 目を逸らしたリオが乾いた笑い声を上げると、クレーエが再び肩を揺らして笑う。
「まぁ、そうリオを苛めてくれるな。フレデリカ」
「馴れ馴れしく名前を呼ばないで!」
 「ふん」と鼻を鳴らすと、フレデリカは不機嫌そうにそっぽを向き、
「あ。そうだった。あんたに聞きたいことがあったんだった」
ふと思い立ったように、真剣な顔をクレーエに向けた。
「俺に?」
「ええ。さっき、半年間ずっと今日の為に準備をして来た、って言ってたわよね? もしかして、あんたがこの都市にやってきたのって、この為だったの?」
「……ん。まぁ、そうかもな」
「どうして、こんなことをする気になったのよ?」
 フレデリカは真剣な顔で、クレーエを見つめた。クレーエは口元を手で覆うと、気まずそうに顔を背け、
「……オスティナトゥーアの連中に頼まれたんだよ。連中には、一月ほど世話になっていたことがあってな」
顔をしかめた、歯切れの悪い調子でぼそぼそと話し始めた。
「立ちあげる事業が軒並み上手く行かないことは、連中も可笑しいと気付いてた。オスカーが裏で潰して回ってる、そんな噂も流れていた。だが、ヴェストリクヴェレからの援助物資の流通を管理しているのはオスカーだ。物資が届かなくなれば、生きてはいけなくなる。誰もオスカーに逆らえなかった。そんな様子を見てたら、思わず『半年以内に何とかしてやる。俺に任せとけ』なんて大言吐いちまって。……後に退けなくなっちまったのさ」
「……」
 予想外の答えに、フレデリカは目を丸くしてクレーエを見つめた。不吉で冷酷で粗暴な、幽霊のように不吉な男。まさか、そんな人並みの感情があったなんて。
「〜〜! やっぱりクレーエさんは凄いです! ヒーローです!」
机を叩きながら立ち上がったリオが、目を輝かせて声を張り上げた。クレーエが、罰が悪そうに目を逸らす。その横で、
「ヒーロー、ですか」
ジブリールが口を開いた。視線も向けずに、いつもの笑顔のまま、
「父親を暴行されて怯える少女を、悪魔のような形相で脅しつけていたのは、どこの誰だったでしょうか」
冷めた声で、独り言のように言う。聞こえよがしにクレーエが舌打ちする。
「ああやって周りの人間を脅すのが、一番手っ取り早いんだよ。いざとなったら、もう何発か鉛玉ぶち込んででも、サインさせるつもりだったが……。まぁ、それをしなくて済んだのは僥倖だ」
「そ、そうならなくて、本当に良かったですよ」
 顔を引き攣らせたモレクが、汗を拭う。
「ともかく! これで約束は果たせた訳だ。今日で、ちょうど約束だった半年。まとまった金も入ったし、ようやく一息つける」
「ちょ……! あんた、お金は全部オステナトゥーアの人たちに返したんじゃないの!?」
 椅子を引き倒して立ち上がったフレデリカが、声を張り上げた。ビールを飲み干したクレーエは、口元についた泡を指で拭い、
「そりゃ、返したさ」
「それじゃ、どうしてあんたにお金が入るのよ!? 可笑しいじゃない!」
「別に可笑しいことは無い」
大振りの干し肉を掴み取ると、悪戯を企む子供のように歪ませた。
「オスティナトゥーアとの貿易権を取り上げられたオスカー商会は、物流を支配することが出来なくなる。俺は、オスカー商会に代わって、その物流ルートを引き継ぐ商会から、今後見込まれる儲けに見合った報奨金を貰う約束になっているのさ」
「……呆れた。人助けじゃなかったの?」
「別に、人助けだからって、無償でやらなきゃならないなんて決まりは無いだろう?」
 ニヤニヤと目を細めるクレーエに、フレデリカが声を詰まらせる。
「交易を引き継ぐ商会は、ここに居るモレクが取り仕切る。取り引きは公正なレートで行われ、オスティナトゥーアの暮らしは、今よりずっと豊かになるだろう。近隣都市が発展すれば、物流の量、幅共に大きくなる。それは本来、商人にとって歓迎すべきことだからな」
「本当に信用出来るんでしょうね……」
 モレクへと疑いの目を向けるフレデリカに、クレーエは小さく笑って、
「心配要らないさ。モレクは儲けの為なら、どんな手も厭わないエゲツない商人だが、やって良いことと悪いことの区別はついている」
「エゲツないって」
「敬虔な顔をして、得体の知れないことばかりやってる奴よりはマシだろ?」
 言って、クレーエは濁った瞳を隣に向けた。ジブリールは、白い腕を真っ直ぐに伸ばし、店員に追加注文をしている。
「モレクは、オスティナトゥーアの為に力を尽くしてくれる。その一点においては、俺が保証してやるよ。なにせ」
 クレーエは干し肉を噛み千切ると、少しの間をおいて、
「俺は、人の本心を見抜くことが出来る。嘘は通じないんだよ」
微かに口元を吊り上げた。
 しん、
 テーブルに、静寂が降りる。
「……はぁ。そうですか」
 醒めた目をしたフレデリカが、適当に相槌を打った。
「お前、まったく信じてないだろ」
 酔っぱらいをあしらう様な態度に、クレーエが顔をしかめると、
「彼の言っていることは、本当ですよ」
口いっぱいにステーキを頬張ったモレクが、くぐもった声で言った。
「クレーエさんは、本当に人の嘘が見抜けるようです。私も何度か見せてもらいましたが、それはもう驚きましたよ」
 商人である私に彼の目があれば。そう思わずにはいられません。続けて言って、モレクは細い目を更に細めた。それは、狡猾な商人である彼が他人に見せる、数少ない本音であるように、フレデリカには感じられた。
「――それだけに残念です。すぐにでも都市を発たれるなんて。貴方となら、きっとこの地域に名を轟かせる大商会を築けたでしょうに」
 嘆く声に、リオがびくりと身体を強張らせた。
「ふん、俺は商人なんて柄じゃないね……。この半年で身に染みたよ」
 クレーエは大げさに肩をすくめると、明日にでも都市を出ていくつもりであることを告げた。支度が整い次第、砂漠を超えて東へ向かうと言う。
「東へは、何をしに行くつもりなんですか?」
 真剣な顔で問うリオに、クレーエは、考え込むような間を置いた。少し気まずそうに濁った黒い瞳を彷徨わせて、
「考えてない」
ぼそりと呟く。フレデリカが盛大なため息を吐く。
「それくらい決めておきなさいよ……」
「けど、それなら急ぎませんよね。もう少しゆっくりしていっても」
 リオが声を大きくすると、音を立ててジブリールが立ち上がった。
 上機嫌に手を上げて、
「店員さーん! スペアリブ、もう一皿追加お願いしまーす!」
「……どんだけ食うんだよ」
 山積みになった大皿を横目に、クレーエが項垂れる。
「朝も、炊き出しの残りを食べてたわよね。ジブリールさん」
「……そ、そうだね」
 まるで底なしだ。
「こ、これは、覚悟しておかなければなりませんね」
 財布の中身を確かめながら、額の汗を拭くモレクの影に隠れるようにして、フレデリカとリオの二人は、互いに顔を見合わせると、げんなりとした顔で、そっと胃の辺りを押さえたのだった。

■幕間2

 〈森林都市〉ヴェストリクヴェレの姉妹都市である、『階層型第十四自治都市』オスティナトゥーアは、鉱山都市と呼ばれ、鉱山資源――中でもレアメタルの採掘によって栄えた都市だった。
 しかし、七年前の『大罪事変』によって、世界から科学技術の多くが失われて以降は、レアメタルの需要が著しく縮み、経済的に貧窮した都市は、都市内を衛生的に保つ、環境維持装置を運転させるだけの費用にも事欠くようになった。
 外から来る病原菌や災害を遮断するのに適した『篭型都市』だが、環境維持装置が働かなければ、ただの密閉された箱と変わりない。
 流行病(はやりやまい)が蔓延してからの、都市の衰退は酷かった。それまで支援物資を運んでくれていた近隣都市は、病が自都市へと及ぶのを恐れ、交流は遠のいた。姉妹都市である〈森林都市〉ヴェストリクヴェレからの支援は続いたものの、二つの都市の友好の証であるはずの、巨大な榛の木〈アールキング〉の幹をくり貫く巨大な隧道には、コンクリートが流し込まれ、物資のやり取りをするには、直系数キロにも及ぶ、巨大な榛の木を迂回せずにはいられなくなった。
 産まれた子供は、三人に一人しか育たず、老人は次々に倒れて埋葬する場所が無くなり、レアメタル採掘用の坑道に投げ込まれた。
 都市全体が、巨大な棺桶のようだと形容する人も居た。
 もう、五年も前から、そんな状態が続いている。

   ※   ※   ※

「おい、オスティナトゥーアへの妨害を中止するってのは、どういうことなんだ?」
 階層型第十四自治都市、オスティナトゥーアの最外層――かつて生産地区として、広大な農場が広がっていたが、今では見る影もない――に形成された貧民街の一角で、身なりの悪い数十人の男女が集まり、何やら揉めていた。
「オスカー商会が無くなるって、本当なのか?」
「私たちはどうすればいいのよ」
「ふざけんじゃねぇ!」
 殺気だった男たちに囲まれ、場違いなスーツ姿の痩せた男が、おどおどと身体を縮こませながら、隣に助けを求めるような視線を送る。
「ど、どうしましょう。オスカー会長」
「どうしようもこうしようも無いだろう。今の私に、こいつらを雇い続ける金など無いのだからな」
 むすっとした顔で言うオスカーの顔には、多量の脂汗が浮かんでいる。男たちの手には、銃や刃物といった物騒な凶器が握られており、貧民街の荒廃した空気と相まって、その恐怖は一入(ひとしお)だった。
 男たち――といっても、その三分の一程度は女性であるが――は、正式なオスティナトゥーアの市民ではなく、行き場を失くした流民
である。彼らは〈砂漠の海賊〉を名乗り、都市間を行き来する商船などを襲って、生計を立てていた。〈海賊〉といっても、組織と呼べるほどのものではなく、所有する船は、旧式の輸送船。ただのチンピラが集まり、犯罪行為を行っている、といった方が正鵠を射ている。
 オスカーは彼らに表立っては言えないような仕事を依頼し、五年間もの間、オスティナトゥーアから得られる、あらゆる利益を独占し続けて来たが、商会の破綻によって、蜜月の関係は今まさに崩れようとしていた。
「――困ったなぁ。おい」
 ざわつく男たちの中で、ひと際図体のでかい男が、野太い声を張り上げた。〈砂漠の海賊・首領〉マジード。海賊団のリーダーというには若い、三十路をようやく越えた程度の年齢であるが、チームの平均年齢から考えれば、そこそこの年長と言えなくもない。
「遠路はるばる、ノルデンミュンドルングから帰って来てみれば、なんだ。出迎えてくれるはずの仲間は見当たらず、雇い主である商会は潰れそう。ひでぇよなぁ。俺たちが何をしたっていうんだよ」
 嘆くように言って、マジードはオスカーの顔を真近から見下ろした。嘆く様な声とは打って変わって、赤茶色の瞳は、抜き身の刃のように鋭利な殺気を放っている。
 オスティナトゥーアは今、大変な苦境に立たされていた。
 オスカーが手を回したおかげで、まだ騒ぎは周辺の都市へは広まって居ないものの、全ては時間の問題と言える。なにせ、
「しかしオスカーさんよ。都市の人間は一体全体、どこへいっちまったんだ?」
今の都市には、住民と呼べる人々が居ない。
 二日前に起きた、都市の面積のおよそ八分の一を焼き尽くした大火災。それ以降、四万人を超えるはずの市民は、綺麗さっぱり都市から姿を消してしまっていた。
「飢えて死ぬにしても、あれだけの数の人間が一辺に居なくなる、ということは無いだろう。少なくとも、死体を埋める奴が残って無いのは可笑しい」
「……解らん。商会の人間を総動員して調べさせているが、人影一つ見当たらない」
「大火事があったらしいじゃないか。燃えちまったんじゃないのか?」
「燃え跡から幾つか死体は見つかっているが、それだって三十体ほどだ。四万人の市民から比べると、圧倒的に数が足りない。――それに、見つかった死体は全て他殺体。それも、ほとんどが都市の人間のものでは無かった」
 オスカーの低い呟きに、マジードの岩の様な顔が、ぴくりと引き吊った。
「お前たちの仲間だろう。マジード。武器を取って争った形跡があった。見つかった遺体は、どれも鋭利な刃物で滅多ざしにされており、殺害後、残さず火をつけられている」
「やったのは誰だ。審問官ではないな? あいつらにはルチェルトラがついていたはずだ」
「火災による損傷が激しく、死体の見分けなどつかんよ。あの消し炭の中に、ルチェルトラが混ざっていたかどうかは、私には解らない。……件の『大禍』が現れたという噂もあるが」
「まるで他人事、といった言い草だな」
「ふん。関係ないだろう。私はお前たちに、盗賊紛いのことをしてくれ、と頼んだ覚えはない」
 言って、オスカーはぎろりと鈍く輝く瞳をマジードへと向けた。マジードは一瞬、顔を怒りに歪めたが、
「……ルチェルトラの奴か。勝手なことはするな、と言っておいたんだがな」
嘆くように言って、視線を下げた。オスカーが疲れた顔で首を振る。
「それはもういい。……単刀直入に言おう。オスカー商会は破産し、オスティナトゥーアとの貿易は、別の商会が引き継ぐことになった。商会は、貴殿らとの契約の解除をお願いしたい」
 深々と頭を下げたオスカーに、マジードは顔をしかめたが、何も言葉を返さなかった。代わりに、周りの仲間たちがざわつき始める。
 マジードは、太い指でがりがりと頭を掻くと、
「ところで、レオパルトはどうした? 姿が見えないが」
「……知らん。どこかへ行ってしまった」
 苦虫を噛み潰したような顔で、オスカーが答える。酒場での一件以降、レオパルトは何処かへと姿を消してしまっていた。恐らく、オスカーに早々に見切りをつけたのだろう。
「話はこれで終わりだ。今回の仕事の報酬は、きちんと払う。文句は無いだろう」
「おいおい。オスカーさんよ。汚れ仕事ばっかり俺たちに押し付けておいて、用が無くなったらポイってのは、ちょっと酷いんじゃないのか?」
 マジードが無造作に右手を上げる。すると手下たちが一斉に、各々の銃口をオスカーへと向けた。
「ひぃ!?」
 秘書の男が絞殺された様な声を上げる。オスカーはぐっと息をつめてマジードを見上げた。
「……何の真似だ」
「どうした。レオパルトは呼ばないのか? 待っててやるぞ」
 マジードが、弾んだ声を上げた。その顔は、微かな笑みに歪んでいるものの、赤茶色の瞳は砂漠を渡る鷲の如く、用心深く周囲を窺っている。
「何が言いたい?」
「俺は疑ってるんだよ。オスカーさん。都市に残った仲間たちを殺したのは、ルチェルトラとレオパルトなんじゃないのか、ってな。あいつらならやりかねない」
「〈砂漠の海賊〉であるお前たちを? ……何を馬鹿な」
「そうかな? 少なくとも、俺は自分たちの実力をそこまで過大評価していないぜ。現に、審問官が居る都市は怖くて近寄れねぇ。単身で都市を壊滅させるっていう『大禍』とは違う」
「ふん。貴様、『大禍』など本気で信じてるのか?」
「さぁね。……だが、案外この都市の奴らを消しちまったのは、『大禍』なのかもしれないぜ」
「……ふん」
 どこまで本気なのか、とオスカーが値踏みするような視線をマジードへと送る。マジードは大げさに肩をすくめて、
「ともかくだ。あの二人は正直、俺たちも持て余してたんだ。どこかから、ふらりと現れて、あっという間に幹部候補に上り詰めたはいいが、それ以上何を望むって訳でも無い。悪名高い『山狗の子』が、まるで飼い犬のように大人しいんだ」
 不気味だろう?
 言って、おどけたように笑った。
「筋書きとしては、こうだ。用済みになった俺たちが邪魔になったあんたは、『山狗の子』であるあいつらに、こう持ちかけた。あいつらを皆殺しにして、俺の元で働け。報酬は倍出す――。俺たち〈砂漠の海賊〉に不満を感じていた奴らは、それに乗った。ありそうな話だろう?」
「……っ」
 馬鹿な、とオスカーは低く呻いた。
 もしそうするつもりなら、オスカー自身が出向いたりせず、初めからレオパルトの奴に、コイツらを皆殺しにさせている。それだけの実力がレオパルトにあることは、マジードなどに言われずとも、オスカーもよく知っている。それに、今のオスカーにはそもそも、資産と呼べるものが無いのだ。『山狗の子』を囲い込みたくとも、囲い込むだけの金が無い。
「というわけで、だ。俺たちはオスカー商会に慰謝料を要求する。手切れ金と思って貰ってもいい。あんたのことだ。まだたんまりと隠してるんだろう?」
「……っく」
 審問官に対して誓約を終えているオスカーは、資産を隠しておくことなど出来ない。それを知らないマジードの手下たちは、オスカーの沈黙を肯定とみなして、勝手に自分の取り分を巡って、口々に相談を始めた。
「屋敷そのものは残るらしいじゃない。まずは、それを私たちで山分けにしましょうよ」
「いいな。そうしよう。それじゃ、俺は絵画を貰おう。最近買い取ったという奴があっただろう」
「それは、もう傷がついちまったって話だぜ」
「なんだって? しっかり管理しろよ、この野郎!」
 若い男が、怒声を上げて、持っていた鉄棒でオスカーの頭を殴りつける。よろめいたオスカーが、ぐらりと地面に崩れ落ちた。
「おいおい、乱暴はよせ。元とはいえ、雇い主だぞ」
「首領(かしら)。こいつには、そこそこ綺麗な娘が居たでしょう。売り飛ばせば、良い金になりますよ」
「おお、そうだったな。それは良いかもしれんな。ヴェストリクヴェレから連れ出すには、少し面倒がかかりそうだが」
「さすが首領(かしらだ。元とはいえ、雇い主の娘を売り飛ばすのを躊躇いもしねぇ!」
 涼しい顔で頷くマジードに、手下たちが口々に笑い声を上げた。
「……っく」
「オ、オスカーさん……」
 震える秘書に助け起こされ、オスカーは低い唸り声を上げた。
「っ、どいつもこいつも……! 馬鹿にしおって……!」
 怨嗟の言葉を吐き、地面を拳で殴りつける。
 憎悪で視界が塗り潰され、真っ赤に染まる。
 ――審問官の小僧に、ヤクザ紛いの商人たち。フレデリカやフィーネ、善人ぶった顔をした巡礼者。そうだ。あの女は捕まえて脅しつけて、囲ってやろうと思っていたのに、失敗した! 大通りの肉屋、パン屋、乞食のガキたちまで……どいつもこいつも、人を見下した目で見やがって!
「レオパルトされ居れば……!」
そうだ。全ては奴が悪いのだ。
 奴が早々に、一片の躊躇も無く商人たちを追い払っていれば、こんなことにはならなかった。くそっ、あいつの仲間たちを匿っていたのは、この俺だっていうのに。恩を忘れやがって!
「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ――!」
 下卑た笑い声を上げる男たちを見上げ、殺意に顔をひきつらせる。震える腕で額を押さえ、呪詛の言葉を連ねていく。
 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね! みんな死んでしまえ!

「――え?」

 ぐしゃり、と湿った音が、すぐ傍でした。視線を向けると同時に、オスカーの身体を支えていた秘書の男が、どさりと地面へと崩れ落ちる。その喉元には、杭の様な銀の短剣が三本、茨のように突き刺さっていた。
 しんとした静寂が、広場に落ちる。やがて、どこか遠くで、
「どす黒い感情の炎に惹かれてやって来てみれば――なんとも醜いものだな」
「……何者だ」
低く押し殺した声が響くと、マジードは素早く誰何の声を発した。その視線は、揺らぐこと無く奥の闇一点を見つめている。
「何者だ、と来たか。そうだな」
 ゆらり、と深い夜の闇が揺れて、僧衣を来た大柄な男が、車座に囲う男たちの只中に現れた。陰気な空気と、それに反した圧倒的な存在感を持つ男だった。その場に居る誰もが、男がそこに居るだけで、世界が歪んでいく様な、そんな不安を抱く。彼らは本能的に、一切の躊躇い無く闘争の意思を噴出させた。十を超える銃口が、一斉に男へと向けられる。
「しがない流れの審問官、とでも言っておこうか。どうやら、まだ狩り残した野犬が残っていたようなんでな。始末を付けに来たという訳だ」
「俺たちの仲間を……ルチェルトラをやったのは、お前か?」
「ルチェルトラ? ……ああ、あの『山狗の子』か」
 男が思案気に呟き、白い手袋の嵌められた手で顎を撫でた瞬間、銃声が轟いた。マジードが銃を抜き放つと同時に、引き金を引いたのだ。
「――、」
 男の巨体が、ぐらりとよろめく――しかし、倒れない。
 男の前に出現した不可視の壁が、マジードの銃弾を阻んでいた。巨木の様な男の背中の向こうで――いつの間に現れたのか――目を瞑った異形の子供が、枯れ木のような長い腕を翼のように広げ、口を大きく開けていた。
 瞼がゆっくりと持ちあがり、燃え上がるような真紅の瞳が、一同を睨みつける。

 ――この剣<しるし>によって、汝はうち勝たん(イン・ホック・シグノ)

「――開廷″」

 低い呟きと同時に、銀の剣が雨のように降り注ぐ。〈砂漠の海賊〉たちは悲鳴を上げる間もなく頭蓋を貫かれ、次々と地面へと崩れ落ちる。
一拍の間をおいて、誰かが悲鳴を上げた。それを合図にしたかのように、倒れた男たちの身体から、次々と赤黒い炎が噴き上がる。

   ※   ※   ※

 燃え上がる貧民街を見つめながら、マジードは荒い息を押し殺して、じっと陽炎の向こうを見つめた。喉を焼く炎熱の中、野暮ったい僧衣の男が、重たい足取りで瓦礫の山を歩いて来る。
 それは、地獄の窯の底を歩き行く、炎熱地獄に堕ちた罪人の姿を想像させる。
「『山狗の子』であるルチェルトラが殺されたと聞いた時は、腑に落ちなかったが。そうか、そういうことか」
 一人、合点がいったように呟き、マジードは瓦礫の下から紫色のスーツを引っ張り出した。短く悲鳴を上げたオスカーが、頭を抱えて地面に跪く。
「前に聞いたことがあるぜ。審問官の中には、神のぬるいやり方に疑問を抱く奴が居るって。そういう奴は大抵、天使に見捨てられ、審問官の資格を失うんだが、ごく稀に、天使も審問官の考えに同調し、神に反旗を翻すことがある」

 ――この剣<しるし>によって、汝はうち勝たん(イン・ホック・シグノ)

 低い囁きが流れると同時に、甲高い女の断末魔の悲鳴が上がる。
 返り血を浴び、赤黒く染まった僧衣が、湿った音を立てて、瓦礫の山に座り込むマジードの眼前に立った。
 男の背後に浮かぶのは、清浄とはほど遠い、黒い翼を持った異形の天使。感情の浮かばない宝石のような瞳は、炎を映したように赤く、褐色の肌は炎の煌めきを受けて艶めかしい。まるで、本物の人間のような存在感。
「反旗を翻した天使は、堕天する。神の僕としての権利を剥奪された天使の純白の羽は、どす黒い漆黒に染まり、世界に災厄を撒き散らす化け物に鳴り下が……っ!?」
 口腔に白銀の刃を突き入れられ、マジードは苦悶の表情を浮かべたまま、声も無く絶命した。
 黒翼の天使の顔に嵌められた、宝石の様な真紅の瞳から、血の涙が零れ落ちる。
 異形の天使は泣いていた。
 まるで、罰を下すことしか出来ないその身を、嘆くように。
「災厄を撒き散らす化け物? 違うな。堕天使は、神の定めた法では無く、審問官の正義に則って執行を行っているだけだ。その在り方は、通常の天使と変わりない」
 動かなくなったマジードを見下ろし、僧衣の男は重たい口を開いた。胸元で、逆さ十字のロザリオが重たげに揺れる。
 男がおもむろに腕を掲げた。
 中空に浮かぶ十の短剣が、千路に闇夜の空を奔る。
「ひぃっ!?」
 瓦礫の影から、銃の照準を絞っていたオスカーは、銃口に銀の短刀が跳び込むと同時に、反射的に引き金から手を離した。弾みで銃が暴発し、飛び散った鉄の欠片が、左腿に突き刺さる。
 焼けるような痛みを感じ、オスカーは這うようにして後退を始めた。視界の隅で燃え盛る、炎の明りに照らされた地面に、色濃い影が差す。
「お前が、オスカー・グートルン・ペーツだな」
 誰何の声に、オスカーは震える身体で、恐る恐る顔を上げた。
 二組の色の異なる瞳が、闇の中でオスカーを見つめている。
「堕天、使」
 僧衣の男の肩に浮かぶ天使を見上げ、震える唇で囁く。
 囁きに応える様に、黒翼の天使は、両の翼を焼けた空一杯に広げた。開いた口から獣に似た咆哮が上がると同時に、マジードの死体から、赤黒い炎が噴き上がる。
 オスカーは、そのあまりに異質な光景を、空白の頭で見つめていた。
 肌に絡みつく、周囲の空気と混じり合った人脂の匂い。中でも髪が燃える匂いは、不快でたまらなく、今にも胃の中のものを全てぶち撒けてしまいそうだ。
「む、無駄だ」
 オスカーは、低く押し殺した声で言った。
「審問官の小僧が言っていた。商会としての利益を生み出すために行動して来た私には罪の意識がなく、都市もそれを罪とは認識していないと。お前に私を殺すことは出来ない……!」
「利益を生み出すためならば、罪も無い人々から財産を奪い、貧窮に陥れ、飢餓の果てに殺しても、何ら良心は痛まないと?」
「そうだ。その通りだ! それが経済というものだろう。世界の常識だ……! 私に罪などあるものか!」
 震える声を張り上げるオスカーを見下ろし、僧衣の男は気難しげ顔で、オスカーを見下ろした。眉間に刻まれた色濃い皺を深めると、
「……残念だ」
絞り出すように、凝り固まった石のような声を吐き出した。
「この都市の審問官は、この程度の罪人も裁けなかったのか?」
 砕けん程に歯を食いしばり、目を剥く。地獄のような瞳で男を見据え、高々と右腕を掲げる。
「貴様がして来た行為は、盗人と何ら変わらぬ。殺人と変わらぬ! この程度の矛盾も砕けぬ審問官に、いったい何の意味がある!? 数の論理で決まる正義に、何の価値がある! どんなごたくを並べようと、罪は、罪。罪には、罰が与えられなければならない! 方法は単純だ」
 掲げた右手に、ロマネスク調の華美な装飾の施された銀の短剣が現れる。僧衣の男はおもむろにそれを、オスカーの肩口へと振り下ろした。
「――盗みが止められないというなれば、腕を切り取ってしまえば良い」
 ヒキガエルを踏みつぶした様な声が、オスカーの分厚い唇から迸った。紫のスーツに包まれた腕が、湿った音を立てて崩れた煉瓦の上に落ちる。腕から多量の血液を撒き散らしたオスカーが、白目を剥いて天を仰いだ。男は眉ひとつ動かさず、真正面からそれを見下ろす。
「オスカー・グートルン・ペーツ。勘違いするなよ。都市の審問官が貴様を裁けなかったのは、貴様に罪が無かったからではない。審問官共が奉じる神が、無能だったからだ」
 滔々と説く男の頭上に、十の短剣が現れる。銀に輝く断罪の剣。血の涙を流す天使が、空虚な瞳でオスカーを見下ろしている。
「神はあまりにも無能で、人はあまりにも度し難い。いくら正義を執行しようとも、人々は争い、殺し合い、際限なく堕落し続ける。果ては無く、故に救いも無い」
 噴き上がった炎に煽られて、男の黒衣が翻る。
「だから、私がお前たちを救ってやる。我が天使『イグニス』の炎で、全ての罪穢れを、骨を焼く痛みと共に、影も形も遺さず浄化し尽くしてやる」
「……ひっ!?」
 オスカーが短い悲鳴を上げて、目を見開く。
 意識を取り戻すと同時に、噴き上がる炎に照らされた男と目が合った。一点の光も宿らぬ、絶望を煮詰めた様な、濁りに濁って澱んだ漆黒の瞳――。
「貴様……」
 限界まで目を見開いたオスカーが、上擦った声で叫ぶ。
「そうか。貴様が『大禍』か! 神殺しの大罪人……!」
「だったら何だ。小悪党」
 空中から現れた短剣の、白銀に輝く十の切っ先が、一斉にオスカーを向く。黒翼の天使を従えた男は、憤怒に顔を歪ませ、悪鬼羅刹、地獄の獄卒の苛烈さで罪人に迫る。
「どうした。オスカー・グートルン・ペーツ! さっきまでの威勢はどこへ行った。選べよ。腕か足か、大事な方を。お前の罪の清算が終わるまで付き合ってやる。……差し出せよ。ほら、どちらでも良いから差し出せ! なぁ!」




(>∀<)ノぉねがいします!



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