膨大な光量が奔り抜けた大空洞は、無音の静寂に包まれていた。跡形もなく消え去った魔方陣、半壊した石床、ちぎり飛ばされた絡み合う蔦の天蓋――そして、根元からへし折れた石柱。煙る砂塵が、気流の変化により猛烈な勢いで流れていく。嵐の過ぎ去った朝のように、空気がすっかり入れ替わっていた。 士郎はそっと、薄く広がる夜の黙を眺め見た。 辺りに立ち込めていた腐敗臭、おぞましい鳴動を続けていた赤黒い光――。それら全てが聖剣の光に消し飛ばされている。 目の前に展開した 瓦礫の山から飛び出した凛が、騎士の名を叫び、腹を抑えて蹲る。傷に響いたのだろう。その顔は今にも泣き出しそうに歪んでいる。凛の身体の損傷は深刻で、すぐに手当てをしなければ命にも関わる危険性があった。それでも、彼女は身体を引きずるようにして、立ちつくす騎士へと歩み寄る。その顔には抑えきれない喜びが溢れていた。 もう一度、凛が騎士の名を呼ぶ。 その名は、今この場で使うに相応しくない名称であったし、そもそも彼女自身の名前ですらない。しかし、そんなことは些細な問題と言えよう。現に凛はその騎士を、他の名前で呼んだことはなかった。 三度、吹きすさぶ風の音にも負けない声量で騎士を呼ぶ。騎士は振り返らない。 普通に会話が出来るほどまで近づいたところで、凛の顔に戸惑いの色が滲んだ。立ち止まり、騎士の小柄な背中を見つめる。 士郎には凛の脳裏にどんな映像が浮かんで居るかが容易に想像できた。八年前のあの戦争で、彼女が最後に見た騎士の姿は、光り輝く王のものではなかった。魂を泥に汚染され、不本意のまま冬木の聖杯戦争で結末を迎えた剣の英霊。彼女が迎えた結末を、凛は知らない。 「……ねぇ。セイバー」 一歩、前に踏み出す。懇願するように、 「私たちが解らない? そうよね。もう八年になるもの……。姿だって、あの頃とは違う。貴女が解らないのも無理はない」 「――……」 呼びかけが通じたのだろうか。騎士がゆっくりと振り返る。 凛の顔に淡い期待の色が浮かび、 「……セイバー?」 その表情が、時を止めたように凍りついた。 騎士は――。 イングランドの英雄、『騎士王』アーサーは、恐ろしいものでも見るかのような目で凛を見つめていた。 「貴女は」 薄い唇から、薄氷を伝うように声が漏れる。 「貴女は一体――。私を呼び出すのに何を使ったのですか」 力尽きたように地面に膝を突くと、剣を支えに踏み止まり、 「声が、流れてきました」 騎士は寒くて仕方がないと言うに身体を掻き抱く。 「夥しい量の声が、私の中に――。苦しい、悲しいと生々しい負の声が。一体、何を触媒に私を喚び出したのですか。これではまるで――」 アンリマユに取り込まれた時のようだ、そう早口に囁き、凛を見上げた。そこには滲み出る敵意と、失望の色が浮かんでいる。 「……っ」 凍りついていた凛の顔が泣きだしそうに歪む。胸の前に当てた手を握り締めると、曖昧な微笑をその顔に浮かべ、 「違うのよ、セイバー。私は」 「何が違うというのですか。人々の魂を生贄に捧げ、私を喚び出したのは貴女ではないと? 外道に堕ちましたか。トオサカリン……!」 凛の足が、押されるように一歩下がる。凛は震える唇で口を開き、 「待て」 怒りに震える騎士の視線から守るように、赤い外套の騎士が間に入った。 「喚び出したのは遠坂じゃない。俺だ」 巌のような声で、士郎が告げる。糾弾の声を一手に引き受けると、その決意を視線に籠めて騎士を見下ろす。 「ッ――!」 視線を強めた騎士の口元が、きつく引き結ばれる。かつて向けたものとは違う表情がその顔に浮かび、そっと影を落とした。 士郎は視線を遮る位置はそのままに、膝を突く騎士へと、一歩を踏み出す。 「近づかないでください……!」 はっきりとした拒絶の声。 士郎の歩みが止まる。その顔に浮かぶのは色濃い後悔の色。 ――そうだったな。 心の中で小さく呟く。 エミヤシロウには、彼女とこうして顔を合わせる資格など無かったのだ。 勝手な都合で喚び出し、再会を喜べなどというのは、あまりにも虫の良すぎる話ではないか。だってそうだろう。俺は、この手で彼女を――。 「私は――貴方に合わせる顔が、無い」 重たい沈黙を破るように、セイバーが独白した。固く強張った声で、零れるように呟く。まるで、犯した罪を告白するかのように。 静寂が降りる。洞窟を抜ける風の音が、細い悲鳴のように大空洞に響いている。 やや惑い、士郎は震える喉で息を吸い込んだ。 「それは俺の方だ」 俯くセイバーの表情は、士郎には見えない。ただ、彼女が自分をかつて出会った『弓の英霊』ではなく、共に戦場を駆けた少年だと気づいたことは知れた。 ああ、心の底から思う。 ずっと気付かないでいてくれたら良かったのに――。 再会することがあったらと思ったことは何度もあった。しかし……こんな無様な姿で、会いたくは無かった。 「今更、こんな方法でお前を喚び出しておいて、合わせる顔なんて無いといことは解っているつもりだ。……俺は」 両手を開き、筋張った手をじっと見つめる。何度も皮が破れ、固く無骨になった錬鉄の腕は、 「俺は、お前を殺した」 見紛うことなく、血に染まった人殺しの手だった。 「それは貴方の責任ではない!」 ひと際大きなセイバーの声が、士郎の言葉を打ち消す。擦り切れた記憶と寸分と変わらぬ顔が、士郎を見つめた。 「あれは、私が自ら招き寄せた報いです。恨み言など吐くつもりはありません。誓約を破ったのは、私の方だ」 悔やむように、言葉を吐く。 「変わりないさ」 疲れたように士郎が言葉を返す。 「理由なんて問題じゃない。全ては結果だけが証明している」 彼女の喉を斬り裂いた感触は、八年経った今でも、この腕に染み付いている。色あせやしない、罪の記憶――。生涯忘れまいと誓った、己の罪。 「俺はお前を裏切り――自らのエゴの為に、お前を殺したんだ」 ずっと、胸のどこかで蟠り続けていた思いを吐露する。どうしようもなかった、そう自分に言い聞かせるには余りにも残酷に過ぎる、その所業を。 「お前には何をされたって文句は言えない。こんな恥さらしを、許してくれとは言わない」 再び、二人の間に静寂が降りる。 エミヤシロウは裁かれなければならぬ。それは八年の時を超えた今でも変わらない事実だ。 俯き立ちつくす士郎へと、騎士は一歩を踏み出す。 士郎は動かない。いや、動けない。 犯した罪には罰が与えられる。それに抗う術は無い。しかし、 「今でも貴方は、あの時の少年と変わりないのですね」 士郎の首元に、柔らかく腕が回される。 「長い間、苦しめてしまい申し訳ありません」 囁かれる言葉に胸が詰まる。 「……!」 その罪は永久不変で変わらないものだ。殺した相手が生き返ったからといって、それが無かったことになるわけではない。それは決して覆らない、覆してはならない事実。 だが、それでも、 「どのような結末を迎えたのか、私は知らない。けれど心から思うのです」 感謝しても良いだろうか。 「貴方達が無事でいてくれて、本当に良かった」 過ぎ去った夢の続きを、今世で迎えられる奇跡を。 「……すまない。セイバー」 大粒の涙が、鳶色の瞳から溢れる。それは、かつて冬木の街で育った少年が、伝えてくて伝えてくて、それでも自ら封じるしかなかった思いの欠片。 「シロウ」 優しく名前を呼ぶ声に、顔を上げると、セイバーの真っ直ぐな翆緑の瞳がじっとこちらを見つめていた。小さく首を振る。どこか戸惑った、 「お久しぶりです。――すっかり見違えてしまいましたね。初めは誰だか解りませんでした」 けれど、確かに浮かぶ淡い微笑。 「そういうお前は、変わらないな」 自分で言って、小さく笑ってしまった。 士郎や凛にとっては八年の長い月日が過ぎているが、彼女にとって、それは泡沫の夢――彼女がその後、どれだけの戦場に馳せ参じたのかは解らないが――、せいぜい数日の間の出来ごとだったはずだろうから。 巡り合わせの皮肉に、震える唇を歪ませる。 ――本当に、驚いた。 溢れ出る涙に手を伸ばし……何年振りになるだろう。枯渇したはずの心の底から、自分だけの為に言葉を掬いあげる。 ――擦り切れ、元型さえ見なくなった心に、まだこんな輝きが残っていたなんて。 「……あのー二人とも。いい雰囲気の所を邪魔して悪いんだけれど。……状況が状況だし、そろそろいいかしら?」 「……ん?」 トゲのある声に振り返る。 そこにはにこやかな笑みを浮かべ、腕を組んだ凛が立っていた。 「遠、さか?」 士郎の顔から血の気が引いていく。どういうわけか、凛の背後には不吉な蜃気楼のようなものが漂っているのが見える。 「どうした? なんか変なモノが立ちのぼってるぞ」 「ねぇ、士郎。感動の再開を喜ぶ気持ちは解るわよ。私だって少し泣きそうだったし……。けれど、私だけ悪者扱いのままっていうのは、何だか悪いな、とか可愛そうだな、とか思ったりしないの?」 助けを求めるように視線を戻すと、既にセイバーは腕を解き、逃げるように背を向けてしまっていた。 額に指を当て、しばし考える。 そうして、士郎は折り目正しく凛に向かって頭を下げた。 「すまない。遠坂――。お前のこと、すっかり忘れてた」 「あんたってヤツは――!」 握り締めた拳を士郎の脇腹に叩き込む。サンドバックを打った時のような、弾ける様な音が崩壊した大空洞に響いた。 「そういうこと、思っていても口にする!? ホント、成長しないわねバカ士郎……!」 あまりの痛みに思わず蹲った士郎の頭を、凛のブーツが容赦無く蹴り上げる。 ブーツに士郎の血が付着する。吸血鬼の為、復元呪詛が働いているようだが、戦闘を終えた今、それは大分弱まっているようだった。瞳も、元の色に戻っている。 「失礼しました。リン」 声に顔を上げると、生真面目そうな顔をしたセイバーが僅かに目を伏せていた。 「事情はまだ把握していませんが、貴方達が選んだ選択の結果がこれだと言うのなら、私を召喚した経緯にも納得のいく理由があるのでしょう。一先ず置いておくことにします」 相変わらずの生真面目な受け答え。 「まぁ、誤解が晴れたようならいいわ。久しぶりね、セイバー……。いえ、貴女にとっては久しぶりじゃないのかしらね」 ほっと凛の顔に安堵の色が浮かぶ。 正直、ここでセイバーにさっきのことを追及されても、良い言い訳が思い浮かばず困ってしまう所だった。 凛と士郎が選んだ方法は、彼女の嫌う邪道以外の何ものでもなく、弁解の余地などあるはずもない。 気付かれないようにそっと、唇を噛み締める。 ――これは、私と士郎の罪。聖杯を手に入れて、全てを無かったことにすることだけが、残された唯一の抗いの道だ。 「それに、あんたたちが抱き合ってるのは、不思議と厭らしくないのよね」 身長差から言っても、お父さんの首に子供がぶら下がっているみたいな感じで。 「……その例えが正しいのかどうかは解りませんが、厭らしさなどあるはずもありません。私たちは戦友として、再開を喜んだだけなのですから」 少し不機嫌そうにセイバーが返す。そんな所もまた、八年前と変わらない。 「それで――。リン。聖杯は今、どこに?」 慎重に周囲を見渡しながら、セイバーが尋ねた。現世の求めに応じた騎士王の目的は『聖杯』を手に入れること、ただ一点。その為に呼びかけに応じたのだから、気にならない方がおかしい。 「この奥よ。貴女を召喚することが出来たと言うことは、もう聖杯は出現している頃かもしれないわね」 瓦礫に背を預けながら答える。正直、もう立っているのも辛かった。 凛の言葉に、セイバーはじっと 「この奥……。とても大きな気配が幾つかありますね。先ほどの吸血鬼の同族ですか」 「似たようなものだ。月蝕姫と、その側近。そして、ガイアの怪物……。こいつらの相手をするのは、いくらお前でも荷が重いかもしれないな」 地面に座り込んだ士郎が言葉を挟む。 「ガイアの怪物……」 セイバーの顔が固く強張る。あの化け物たちがいつから存在していたかは知らないが、彼女が生前、彼らの存在を知っていた可能性は十分にあり得る。恐らく、彼女はそれがどれだけの脅威なのかも正しく理解していることだろう。 「セイバー。聖杯を手に入れるなら、急いだ方がいいわ。本格的な運用が始まれば、私たちにはもう、手が出せなくなる」 幾らセイバーとはいえ、聖杯を手に入れた月蝕姫からそれを奪い取るのは困難を極めるだろう。ならば、一刻も早く月蝕姫の元に急いだ方が良い。 ――それに。 情けない話だが、セイバーには何としても『聖杯』を奪取してもらわないと困るのだ。 もちろん、彼女に自身の望みを叶えてもらいたいと言う気持ちもある。だが、今の私たちはそんな綺麗な思いだけでは成り立たない。 『聖杯』を手に入れ、儀式で犠牲になった命を元通りの世界に返す。その為には、聖杯が何としても必要なのだ。 身勝手といわれようと、縋りつくしかない。 あるいは、最強の幻想の担い手である彼女ならば、手遅れになる前に、聖杯が月蝕姫たちの手に渡るのを阻止することが出来るかもしれないのだから。 「解りました。では、先を急ぐことにしましょう」 セイバーが小さく頷く。凛はほっと息を吐いて、身体の力を抜いた。 セイバーが奥へと向かって歩き出す。そして、ふと座り込んだ士郎と凛を見て、僅かに目を細めた。 「何をしているのです? 二人とも。先を急ぐのでしょう?」 士郎が、あり得ないものでも見るような目でセイバーを見る。 「待て。俺たちも連れて行く気か?」 「もちろんです」 表情一つ変えず、セイバーが頷く。士郎は辛そうに身体を起こし、 「待て。どうして当然のことのように言うんだお前は……! 俺たちなんて、連れて行っても足手まといになるだけだぞ? お前一人の方がずっと」 「足手まといになどなりません」 微塵の躊躇もなく、セイバーは断言する。そして、いつかそうしたように、胸に手を当て言った。 「シロウ。私は取り戻したい」 「取り戻す? いったい何を」 「信頼を、です」 落ち着いた声で、しかし強い意志を籠めてセイバーが言った。士郎が息を呑む気配が伝わってくる。 「もしも許されるなら――。私は今一度あなたの剣となり、一度失った騎士としての名誉を取り戻したい」 この清々しさは何なのだろう。 凛は思わず、騎士の立ち姿に見入ってしまう。 戦場とは泥臭いもの。裏切りや絶望、そして絶対的な死が支配する混沌の坩堝だ。 しかし、彼女はそこにあっても気高く、その輝きは不可侵。いや、そこにあるからこそ、彼女の清廉な意思は見る者を圧倒する。 どんな絶望的な状況にも、彼女とともにあれば、光を見出せるような気がしてくる。 ――そうか。これが『英雄』なんだ。 八年の時を超えて、凛はようやく気が付いた。英雄と呼ばれるものが持つ輝きに。その、気高い魂の在り方に。 戦場というものを、本当の意味で知らなかったかつての自分を遠くに見たような気がした。無鉄砲で、負けん気が強くて、それでいて前だけを真っ直ぐに見つめ、『英霊』とだって渡り合えると心から信じていた自分。 ――今は遠い、遠坂凛という少女の在り方。 無言のまま、二人はしばし見つめ合う。やがて、士郎が一度視線を落とし、再びセイバーの顔を覗き込んだ。 「本当にお固い奴だな。お前は。そんなこと、気にする必要なんて無いのに。……少なくとも俺の中で、お前の名誉は一度だって、ほんの僅かだって、損なわれたことはなかったよ」 小さく、皮肉の交わらない笑みを浮かべる。 思わず胸が熱くなる。士郎にとって、彼女は標だった。蔭ることの無い、光を放ち続ける希望の光。アーチャーが前を走る競争相手だとしたら、彼女は憧れる到達点そのものだったのだ。 少なくとも、八年前。彼らが出会った瞬間には。 「……すまない、セイバー。今度こそ、必ず手に入れよう」 すっくと立つ騎士へと、士郎が手を伸ばす。セイバーは小さく頷き、差し伸ばされた手へと、自身の手を重ね――。 士郎の顔が、驚きに歪んだ。 「セイバー! 後ろだ……!」 「――え?」 振り向いたセイバーの背後から、巨大な獣が躍り出た。全身を焼け爛らせた肉色の怪物。それは、まるで獲物を仕留める機会を伺っていたハ虫類のように、瞬く間にセイバーの小柄な身体にしがみ付くと――彼女の陶磁のような首筋に、牙を突き立てた。 「ッ!? う、ぁ……っ!」 身体を抑え込まれたセイバーの小さな口から、か細い呻き声が漏れる。振りほどこうと身体を揺さぶるも、ぬるりと四肢に絡みつかれたそれを、払うことが出来ない。 ――ゴクリ。 怪物の喉が大きく動く。 「――っ、離れろ!」 輝煌の剣を投影した士郎が、一足飛びに斬りかかると、怪物はあっさりとセイバーの首筋から手を離し、大きく背後に跳び退った。 赤く焼け爛れた身体から小さく煙りを立たせるそれは、にやり、怪物の容姿にはあまりにも不釣り合いな、はっきりとした理性ある笑みをその顔に浮かべた。 士郎の顔が戦慄に歪む。 「お前は……。白騎士、か……?」 士郎の問に、怪物がその笑みを深くした。確信する。それが、あの『白騎士』フィナ=ヴラド・スヴェルテンなのだと。 『ククク、ハハハハハ! さすがは彼の騎士王の血。実に美味だ!』 唇が剥がれた犬歯が剥き出しの顔で、怪物が笑う。全身は焼け爛れ、衣類の類は何も纏っては居ない。ぎょろりと大きい真紅の瞳だけが、まるで爬虫類のように蠢いている。笑うその声さえ、さっきまでの白騎士とはかけ離れていた。まるで、元より喋る機能を持たない異形が、無理に人の声を発しているような――。 「――化け物」 知らず、震える喉から声が漏れていた。 『ハハハハハッ! こんな辱めを受けたというのに、歓喜に声を上げたくなる。何と蠱惑的な味だ。こんな上手い血を飲んだのは何時以来だったか』 「ッ、貴様、一体何を――!」 セイバーが不可視の剣を抜き放ち、白騎士を睨み据えた。首筋を抑え、怒りに身体を振るわせる騎士王の姿に、白騎士は喜びの声を上げる。 『――おぉ、屈辱に顔を歪ませる、王の姿。素晴らしい。なんという顔をするのだ。騎士王よ』 駆けだそうと足に力を込めたセイバーが膝を折る。彼女が受けた傷は、思ったより深刻なようだ。 膝を突いた騎士王。白騎士は再び血の味を思い出すように、目を細めた。陶酔しきった声で独白する。 『しかし、美味だ。この高揚感はまるであの時のようだ。遥かな昔、死臭と血の臭いで咽びそうな船上で受けた、あの血の味――』 ぴたり、 饒舌に喋っていた白騎士の声が、ぴたりと止まる。 記憶を辿るようなしばしの沈黙。やがて、白騎士は不可思議そうに首を傾げた。 『この味……。まさか』 搾り出すように、尋ねる。 『貴様、女……か?』 「女か、だと?」 セイバーの顔が屈辱と怒りで赤く染まる。勢いよく立ちあがると、 「女では刃を合わせることが出来ないとでも言うつもりか!? 降りてこい、白騎士とやら。女と侮ったこと、すぐに後悔させてくれる……!」 美しく整った顔を恥辱に歪ませ、不可視の刃を白騎士に向けた。 『女、だと?』 対する白騎士は、しばし、茫然とセイバーの顔を凝視していたが――やがて、ぼそぼそと小さな声で何事かを呟き出した。 初めは聞き取れなかったその声が、段々と大きくなっていく。 『何故だ、何故だ何故だ何故だ、何故だ……!』 頭を左右に大きく振り、悶えるようにして身体を震わせ始めた白騎士の狂態に、凛も士郎も、そしてセイバーでさえも、思わず言葉を失い、目を離すことが出来ない。 「一体、何を……」 『黙れ!』 怪物の視線が、僅かに呟きを漏らした凛の意識を貫く。ただそれだけで、凛の喉は凍りつき、言葉を発することが出来なくなった。呼吸一つままならない。 『ハァ、ハァ――。何故だ。何故、今ニ、ナッテ』 白騎士が背後に跳躍する。四肢を伸ばして壁に張り付くと、爬虫類のように這うように石壁をよじ登り始める。 「待て! 貴様、騎士の名を騙っておいて、敵に背を向けるのか……!」 逃げる白騎士へと、セイバーが追い縋る。しかし、白騎士は凄まじい勢いで壁を駆け上がると、洞穴の穴から消えてしまった。 「――なんだ、あれは」 石床の上に倒れ込み、何とか凛が顔を上げる。ようやく、まともに呼吸が出来るようになったが、手足の震えはしばらく収まりそうになかった。 「なによ? あれ――」 意味が解らない。聖剣の一撃を受け滅びたはずの白騎士が現れたのも、突如謎の呟きを残して消え去ったのも。まったく頭の中の整理が追いつかない。 『何故だ』 圧倒的な意思の力で、圧倒的な存在感を放っていた白騎士が、初めて見せた混乱に満ちた狂態。 あれほど自尊心の強い男が、あそこまで戸惑うとは、一体何が――。 「セイバー!」 隣で士郎が叫ぶ。そこでようやく、凛は目の前で崩れ落ちたセイバーの姿を視界に捉えた。 「大丈夫か!? しっかりしろ……!」 「……っく」 倒れ伏したセイバーを、士郎が抱き起こす。セイバーは苦しげに身を捩り、深い牙の跡の残る傷口へと手を伸ばすと、傷口を強く握り込み、 「っぐ、ああああぁぁ!!」 「……!」 迸るような絶叫が上がる。士郎の顔が色を無くす。強引に爪の喰い込ませ、暴れるセイバーの腕を抑えつけ、 「――大丈夫です。半刻もすれば収まります」 細い女の手に、腕を掴まれた。驚いた士郎が顔を上げる。そこには、ぼろぼろのカソックを纏ったシエルの姿があった。 「申し訳ありません。さっきの一撃で気を失っていたようです。……間に入るのが遅れました」 言うなり、シエルは身を屈め、チョークで図形のようなものを刻み出す。 「代行者。いったい、何を――」 「心配いりません。……傷の治癒に魔術を使うだけです」 荒い息を吐くシエルは今にも倒れそうで、とても大丈夫には見えない。凛は何か手伝えることはないかと荒い息を吐くセイバーに近づき、 「近づいてはいけません!」 鋭い言葉に、びくりと身体を震わせた。 「近づけば、苦しみが激しくなるだけです。貴方達は早く聖杯を。彼は――いいえ、彼女は私に任せて下さい」 「でも……」 暴れるセイバーの様子はただ事ではない。今も、士郎が何とか抑えつけているからいいものの、腕を離せば再び自分の身体を傷つけ出すのは明白だった。 凛にも意味の解らない図形が完成し、その線が青く発光を始める。凛は手伝うことも、かといって奥へと向かうことも出来ず、ただ無力感に唇を噛み締めるしかない。 「リン」 不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。 そこには、幾分落ち着きを取り戻したセイバーが居て……。荒い息を吐きながらもその顔に薄い笑みを浮かべていた。 「私は大丈夫です。……それより、早く奥へ。聖杯を手に入れるのが、私たちの目的のはずです」 全然大丈夫じゃない様子で、それでも強がりを言うセイバーを見ていられなくて、目を背ける。 「――ッ」 みっともなく叫んで、泣き晴らしたい気持だった。無力すぎる。何も出来ない自分が、悔しくて情けなくて……。 「俺は、先を行くぞ」 不意に、頭上から響く押し殺したような声。顔を上げると、眉間に深い皺を刻んだ士郎が居た。 「悪いが、今は『聖杯』の召喚を阻止するのが急務だ。――代行者。後は頼む」 士郎の言葉に、シエルが頷く。倒れたままのセイバーもまた、大きく士郎へと頷きを返した。 「士郎……」 「遠坂は休んでいろ。……それ以上動けば、命にかかわる」 数歩、歩き出した士郎を追いかけ、立ち止まる。 士郎の言う通り、もう動ける様な身体ではなかった。行っても、まともに戦うことなど出来るはずはない。だが、それでも――。 「待って――。私も行くわ」 士郎を、一人で行かせるわけにはいかなかった。 振り返った士郎が眉を潜める。立っているのもやっと、という私を見下ろすと呆れたように肩をすくめ、 「無理をするな。お前、どうやってその身体で――」 「無理は承知よ!」 弾ける様な凛の声に、士郎の顔から感情が消失する。 凛の瞳が士郎に語りかける。 ――私たちは、どうしても聖杯を手に入れなければならない理由が出来てしまった。そうでしょう? ややあって、士郎は小さく頷きを返した。 「そうか……。では、行こう」 自分が助かるために犠牲にした、多くの命。その罪を抗うには、聖杯を手に入れ、彼らを生き返らせる以外に方法は無い。 「すぐに私たちも追いかけます。とにかく、アルトルージュ一味が聖杯を手に入れるのだけは、阻止しなければ」 シエルの言葉に頷きを返すと、凛と士郎は、互いに身を寄せ合うようにしながら、回廊の奥へと走り出した。 願望機“サンポ”の運用により、金色の光に照らし出された玉座――。一段高くなった祭壇で、アルトルージュ・ブリュンスタッドは少女のようにターンを決めた。 くるり、正確に一周し、スカートをふわりと靡かせ、くすくすと笑い声を上げる。 頭上には、磔にされたアルクェイドの姿がある。彼の聖人のように十字架に両手を拘束され、静かに眠っている。 アルトルージュは憔悴しきった妹姫へと近づくと、慈しむように目を細め、 「さぁ、奇跡を始めましょう? アルクェイド。もうすぐ、全てが私たちのものになるわ」 そっと囁く。 アルトルージュの立つ祭壇――。古において、呪術師が神に祈りを捧げたこの場所に、今まさに世界の『孔』が出現し、アルカディアより『聖杯』が喚び出されようとしている。 それは、約束された栄光だ。世界に数人と言われる預言者たちが、聖杯の出現は確実と謳っているのを、彼女は知っている。 「私を邪魔する者は、誰も居ない。さぁ、聖杯を私の手に」 真紅の目を細め、両手を広げる。 『魔女の大釜』サンポ。その力が今、臨界点に達する。祭壇に黒色の点が穿たれ、世界に『孔』が――。 「どうした? ヴァルナ」 いつまでたっても出現しない『孔』に痺れを切らしたアルトルージュが、階下で願望機を操る老魔術師の名前を呼んだ。 ヴァルナは動かない。 『魔女の大釜』の運用は既に成功している。後は、最後の魔法陣を起動さえすれば、玉座には巨大な『孔』が穿たれ、出現した『門』から憧れて止まなかった『聖杯』が眼前に現れる。 約束された、輝かしい栄光が手に入る。だと言うのに、願望機にかかったヴァルナの皺枯れた手は細かく震え、顔は蒼白を通り越して土気色になっている。 「何をしている。『聖杯』が手に入れば、お前も根源に至れるのだぞ?」 「……」 「早くしろ。私は早く聖杯が見たいのだ。勿体ぶっているのなら」 「……黙れ」 ぴくり、とアルトルージュの形の良い眉が動いた。振り返り、冷たい表情で眼下を見下ろす。 そこには冷や汗を流し、だが強い決意の籠った瞳でアルトルージュを見上げる、老魔術師の姿があった。 「今、何と言った? ヴァルナ」 「……全て、上手く行くと思わないことだ。死徒の姫よ」 凍える様な殺気を全身に受けながら、ヴァルナはありったけの敵意を篭めて、月蝕姫の朱色の瞳を睨み返した。 胸の裡に残っていた輝きに、別れを告げる。 亡くしてようやく、彼女との思い出が、自分の中で一つの拠り所になっていたのだと気付いた。 後戻りなど出来ようはずも無いのに、どうしてだろう。涙が零れる。 「どうしたの? 士郎」 じっと見上げる、遠坂の猫のような瞳。 真実に俺を心配してくれる彼女さえも、俺は――。 「いや、何でも無い」 目にゴミが入っただけだ。 吹き荒れる心中とは裏腹に、返す声は平素のもの。我ながら、芝居が上手くなったと感心する。 もう、突き進むしかない。 例え、何を犠牲にしても、俺は――。 「行こう……。聖杯は、目の前だ」 出現した気配に、志貴は弾かれたように相対する黒騎士の背後――再奥へと繋がる扉を睨み据えた。 「聖杯召喚の儀式は佳境に入ったか。もう間もなく、聖杯は姫君のものとなる」 黒騎士の顔に薄い笑みが浮かぶ。深い森の奥で急速に濃くなっていく気配。それは志貴がこれまでに感じたどの気配よりも強大で、圧倒的な存在感を伴っていた。 ドクン、 「……っく」 強く鼓動が刻まれると同時に、脳を巡る血液量が増加する。退魔の血が反応したのか。脳の活性化に伴って知覚出来る『死』の領域が広がり、 「――ぁ」 眼球が、音を立てて割れた。視界一杯に細かな罅が入り世界が死に塗りつぶされ――。 力の限り、ナイフの柄で額を殴りつける。貫くような痛みが走り、意識が一瞬遠のく。 「『聖杯』の気配に当てられたか。相変わらず、能力に反して柔な身体だ」 感情の籠らない黒騎士の低い声が、喘ぎ喘ぎ酸素を取り込む頭に流れ込んで来る。 「不出来だって?」 顔を顰め、緩く頭を振ったときにはもう、チャンネルが切り替わるかのように、焼け切れかけていた脳髄は正常な働きを取り戻していた。 「お前たちみたいなのと一緒にするな。確かに俺の目は少し変わってるけど、後は一般人と変わりないんだからな」 崩れ落ちそうな身体を地面に手を突いて支え、出来る限り真っ直ぐに黒騎士を見上げる。 聖杯が出現した以上、このまま手をこまねいているわけにはいかない。一刻も早くこの黒騎士を退けなければならないが……。 そう言えば――。 大空洞に残してきた衛宮士郎や遠坂凛はどうしただろうか。最奥へと至る道が、この 「余裕だな。トオノシキ」 「……なに?」 「お前は理解しているのか? 聖杯が召喚されたと言うことが、どういうことなのか」 ぴくり、落ち着いた表情を浮かべていた志貴の頬が、細かく震える。伺うような間をおいて、黒騎士が続けた。 「聖杯が召喚されたということはつまり、貴様の主が敗北したことを意味しているのだぞ?」 ナイフを握る手に、知らず力が入る。それは無意識のうちに思考の外に追いやっていた事柄だった。 黒騎士の剣技は高速を超える神速。「想像」と「創造」を同時に行う悪魔の腕だ。僅かでも反応が遅れるようなことになれば、容易く無数のブロックに解体される。 この状況で、心を乱すようなことは考えるべきでは無い。 「姫君は寛容だが、あの魔犬は手加減知らずだ。――喰い散らかされれば、まともな形さえも判別できまい」 そう考える理性とは裏腹に、彼女の名前が出る度に、心がざわめき、正常な思考が出来なくなってくる。 これは、愛などという暖かな感情ではない。 今、心をざわめかされているのは、ここに来てピークを迎えようとしている退魔意識。目の前の魔剣が帯びる、真の魔性によって掻き立てられる殺人衝動である。 脳内のスクリーンに、いつか視た光景が、映写機が写したコマ送りの映像のように流れ込み、考えまいとしていた想像と二重写しになる。 何の変哲も無いアパートの一室で、四肢を食い散らかされ、転がる美しい女の肢体。それを見下ろす、荒い息を吐く獣。白銀に光る牙からは、真っ赤な血液が滴り落ちて、 ――なんて扇情的な光景だ。アレを殺す白い獣こそが、俺の姿ではなかったか。 「……少し黙れ」 血液が駆け廻る頭蓋。より早く、より強くと早鐘を打つ心の臓。 止めろ、考えるな。考えればきっと、俺は、 「あの白い獣は世界そのもの。それと対峙している以上、真祖の姫は世界からのバックアップは受けられない」 「黙れ」 きっと俺は、踏み外す。 「吸血衝動が迫った姫君に勝ち目はあるまい。きっと今頃、見る影もない肉の塊となって」 ――待て。そいつにやらせるくらいなら、俺の手で、 「黙れといっている!」 高い声で叫んだ志貴の身体が、黒騎士の視界から掻き消える。遮る物も、隠れる物も無いと言うのに、その姿が消失する。 「――はっ、当たり散らす相手を間違っているぞ。貴様が殺人衝動を抱いているのは、私ではないだろうに」 まぁ、いい――。 黒騎士の口元が微かに歪む。 ――この殺意、全てこの黒騎士が引き受けよう。 緩く陽炎立ち上る魔剣の煌めき。秒単位でその形状を変えていく刃を揺らし、正眼に構える。夜闇に沈む 「まったく。火が入るまで、時間がかかる」 眼を瞑ると、手に取るように伝わってくる死の予感。先ほどとは質が違う。それは獲物を追う狩人の、期待の混じった眼差しにも似て――。 「――ッ!」 眼を見開いた黒騎士が、全力で刃を打ち下ろす。 吸い込まれるように二つの刃が一瞬合わさり、闇夜に閃光に似た花弁を散らした。 「――そうだ。その眼だ」 黒騎士の頭上、張り巡らせた糸の上を逆さに移動する、瞳に蒼い火を灯した蜘蛛。見上げた喉から声が漏れる。 「私は、その眼が見たかった」 「そんなに死にたいのか? お前」 囁く殺人貴の声は冷たく、感情を喪失している。まるでスイッチが入ったように切り替わり現れる『殺人貴』という死神。ひたと忍びよる死の気配に、亡くした心が震える。 「恐れるな。追え、 恐怖に慄く魔剣を抑えつけ、仕留める刃の軌跡を思い描く。 純粋な魔に、明確なカタチは存在しない。例え刀身を絶ち切られたとしても、架空元素は瞬く間に黒騎士が思い描いた形を再現する。 空想の刃は瞬時に現実に投影され、立ち上る陽炎の如く殺人貴を追い、 ザン、 無造作に振るわれたナイフに『殺され』る。 再び、闇に溶け込む殺人貴の痩躯。黒騎士はそれを目で追わず、再び魔剣を正眼で構えた。 ひたと背中に張り付く冷たい死の予感。夜の空気はざわざわとざわめき、研ぎ澄まされた感覚は、無数の墓石一つ一つににさえも敵意を見出す。 ――否。 静かに振られる白い首。 探るのは亡霊の気配では無い。察知するは大鎌を振り上げる、私だけの死神の殺意! ざわりと背筋が震えると同時に、身体が勝手に動いた。 背後で動いた気配に魔剣を合わせる。身体を捻るようにして刃を振り抜いた瞬間、胸部に鋭い裂傷が奔った。 「世界の傷か」 溢れ出る鮮血を見下ろし呟く。肩が落ちるほどに斬りさかれてなお、黒騎士の顔には僅かな動揺さえ浮かばない。それもそのはず。 彼は吸血鬼。 『世界の傷』に触れることによってつけられた傷は、復元呪詛による修復が可能である。しかし、幾ら吸血鬼の再生能力が優れていようとも、深く刻まれた傷はすぐには塞がらない。その動きに支障が出るのは明らかだ。しかし、 「そうだ。これだ」 黒騎士のその白い顔に暗い笑みが浮かぶ。今まさに、黒騎士が感じている感情。それは、歓喜と呼ばれるモノだった。 「ずっと待っていた。私にも、私だけの死が訪れる日を」 熱に浮かされるように呟き、再び長大な魔剣を正眼に構える。 「こんなものではない。死の感触とは、こんな生易しいものではないはずだ」 黒騎士は闇の中へと全神経を集中させる。警戒するのは、殺人貴のナイフただ一つ。『直死の魔眼』による死の宣告だけだ。それ以外の傷は、例え腕が落ちようとも、首が落ちようとも全て些事に過ぎない。 翻る銀の軌跡を、闇が削ぐ。 闇の中から現れたナイフの『銀』の煌きを、掬い上げるように振り上げられた魔剣の『黒』で塗りつぶす。触れたナイフを伝って襲撃者へと伸ばされた常闇は、返す刃に殺され、無へと帰す。 黒衣の痩躯が立ち並ぶ墓石を蹴り、頭上へと跳躍する。させぬと魔剣を奔らせ――今度は、腕に痛みが走った。 行く手を阻む世界の傷。 このまま振りぬけば、空間の断層は黒騎士の腕を鋭利な断面で斬り落とすだろう。 黒騎士の腕が僅かに鈍る。 それ事体は些細な問題。しかし、ここで腕が落ちれば、次の瞬間、振るわれるだろう殺人貴の一閃を防ぐ術は無い。 ならば――。 身体を捻り、剣の軌道を変化させる。すると右腿と右頬、そして左手に鋭い痛みが奔った。 ぴたり、 黒騎士の動きが静止映像のように凍りつく。僅かに目を細め、月明かりに照らされた 月光が、張り巡らされた蜘蛛の糸を暴き出す。 「――ほう」 思わず感嘆の声が漏れる。 「見事だ。この短時間で、これだけの糸を張り巡らせるとは」 黒騎士を囲むように、縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の糸。僅かでも動けば、身体のどこかが落ちる。囚われた黒騎士はまるで籠の中の鳥のようだった。 ひたと迫る死神の殺気。今度は、先のように仕留め損ねはしないと、息を殺して様子を伺っている。 しかし、 「侮るな。蜘蛛。私は無能な羽虫ではない」 黒騎士の声に畏れは無い。 腕が中ほどまで裂けるのにも構わず、魔剣を頭上へと高々と振り掲げた。 飛び散る鮮血。削げる肉片。白い骨がむき出しになった腕を虚空へと突き出し、 ぞぶり、 漆黒の小手、そして腕がゆっくりと魔剣が放つ黒い蜃気楼に飲み込まれていく。闇がコールタールのように溢れ出し、腕を伝って漆黒の外套を伝って流れ落ちた。それらは墓石立ち並ぶ石床まで流れ出すと、一気に溢れ、 「……ッ!」 様子を窺っていた蜘蛛は見た。張り巡らせた蜘蛛の糸――。世界に刻まれた無数の擦過傷が、流れ出した闇に塗りつぶされ、消失していくのを。 「無明の世界で、世界はどう映る? 死神」 重たい闇の向こうから、細い男の声が響いた。遠近感さえもが希薄になり、男の位置さえ掴めない。 「世界卵による現実世界の修正――」 世界に刻まれた傷も、別の常識――。即ち、新しい世界で覆われれば、塗り潰され消え去る。それは黒の絵具が、あらゆる色を塗りつぶし、己と同じ漆黒に変えていく様に似ていた。 「常しえの闇に、貴様は死を見出せるか?」 「これがお前の心象世界か。リィゾ」 さぁ? と闇の中から声が返ってくる。静かでいて、諦観と自虐が入り混じった細い声。 「神が光だというのなら、悪魔は 「名前なんてどうでもいい。ようは、俺がこの闇ごとお前を殺せばいいんだろう?」 志貴の眼が蒼く燃え上がる。 ――より強く。 限界さえも無視して。この世界に蟠る『闇』の全てに、死を求める。より深く。より根源へ。万象より六十四卦へ。六十四卦より八卦へ。八卦より、 「!?」 限界を越え、死の世界を覗きこもうとした途端、闇がざわりと蠢いた。まるでテレビのチャンネルを切り替えるかのように、瞬時に世界に光が戻る。 後には、明るさを取り戻した 「……どういうつもりだ?」 志貴の問うような視線に、黒騎士は無表情で答えを返す。 「貴様は自分が何をしようとしていたのか、理解していないようだな。……まぁいい。元よりこのような結末は望んでいない」 納刀した剣の柄に手を当て、半身で構える。 「来い、殺人貴。貴様との決着は、騎士としてつけたい」 それは黒騎士が最も得意とする技。無限の間合いを持つ、神速の居合い斬りの構え。 「どちらの 志貴はしばし、冷たい瞳で黒騎士を見つめていたが、やがて僅かに肩をすくめると、呆れたように笑みを浮かべた。 「傍迷惑な自殺願望だ。いいさ。綺麗に解体してやるから少しの間動くなよ。瞬きの間にお前の 志貴もまた身体を開いて膝の位置にナイフを構える。 二人の間合いはおおよそ五メートル。黒騎士の腕が黒革の巻きつけられた魔剣の柄を握り、志貴の上体が得物を狙う肉食獣のように沈む。 勝負は一瞬。 刹那の瞬きの後、終結するだろう。 張り詰めた空気が限界まで濃縮され、臨界を迎えたその時。 小さな舌打ちが、墓石立ち並ぶ 「どうした。やらないのか?」 無造作に構えを解いた黒騎士へと、志貴が問う。黒騎士の意識は相対する志貴ではなく、その背後、回廊の向こうへと向けられている。 ――耳を澄ます。 ややあって、耳朶に賑やかな足音が響いてくる。駆けるように近づいてきた気配に、志貴は覚えがあった。 黒騎士から殺気が消失しているのを確認し、背後を振り返る。そこには、傷つきボロボロの外套を纏った衛宮士郎と、 「待たせたわね。無事なようで安心したわ。殺人貴」 血の気の失せた、白い顔をした遠坂凛の姿があった。強がるようにほほ笑むその顔には、色濃い疲労の色が窺える。 「あんた達――。どうして」 思わず漏れた呟きに、凛と士郎が顔を合わせる。肩をすくめ、互いに苦笑を浮かべる。 「……いや、そういう意味じゃないんだ。来るのが遅いものだから、俺はてっきり……。白騎士はどうしたんだ?」 「さぁ? 逃げちゃったから判らないわ」 緊張感の抜けた声で凛が答える。士郎もまた、小さく横で頷きを返す。すると、 「アレが姫君の命を放り出し、逃げ出しただと?」 思わぬところから声があがった。振り返ると、陰鬱な表情の中に僅かな驚きの色を浮かべた黒騎士が、駆け付けた二人をじっと見つめていた。 「そうよ。なんか混乱していろいろ叫んでたみたいだけど、もう近くには居ないわ」 「馬鹿な。アレが姫君の命を放り出し、敵に背を向けただと?」 「私たちだって知らないわよ。とにかく、それが真実。――それより」 凛が左腕に握った宝石剣を構える。 「今はこんなこと話してる状況じゃないわよね」 不敵な笑みを浮かべ、じっと黒騎士を見据える。横に立つ士郎もまた呪文を紡ぎ、右腕を突き出した。 俄かに緊張の色を帯びた二人。それを、 「ここはいい」 志貴の鋭い声が遮った。 「ここには構うな。それより、先を急いでくれ」 二人に背を向け、その視線を遮るように黒騎士との間に入る。息遣いから、背後の凛が戸惑っているのが解る。 「先に行けって、どうしてよ。一緒に戦えばいいじゃない」 不満そうな声。しかし志貴ははっきりと首を横に振った。首だけで振り返り、 「あんた達に、こいつの相手は無理だ。……それより、アルクェイドを頼む。時間がない」 「無理って、どういうことよ!」 顔を紅潮させた凛が、一歩前に出る。すると、それを遮るように士郎が身体をずらした。腕を伸ばし、背中で凛の動きを制すると、ひたと鳶色の瞳を志貴へと向ける。 「いいのか? 殺人貴。俺なんぞにあの真祖の姫を任せて」 「……ああ、いい。だから早く、もう一人のお姫さまを止めてくれ」 投げやりに言って、視線を切り正面を向く。 ――クソッ。 思わず、心の中で毒づいた。 本音を言えば、あの二人などに任せず、すぐにでも自らが駆け付け、アルクェイドの無事を確認したい。 だが、 「……」 それはこの黒騎士が許さないだろう。 黒騎士は僅かに視線を逸らし、じっと立ち並ぶ墓石を見つめている。 随分前からメレム・ソロモンの姿が見当たらないことに、黒騎士が気付いていないわけがない。彼は、心よりの忠義を立てた主の命に背いてまで、この勝負に固執しているのだ。仮にここで二人に戦局を任せ、先を急いだとしても、黒騎士は門番と言う役目を放り出して『殺人貴』を追うだろう。 だが逆を言えば、志貴がここを引き受けている限り、黒騎士はこの二人が先を行くことを引きとめはしない。僅か数秒ならば、志貴は黒騎士の意識を自分だけに向けさせ、二人を攻撃させないだけの時間を稼ぐことが可能だ。 今はアルクェイドのことは、あの白騎士を退けたというこの二人と、先行したメレム・ソロモンに任せるより他に方法は無い。 「……なるほどな」 何が楽しいのか、衛宮士郎が小さく笑う気配がした。苛立ちに顔が熱くなる。時は一刻の猶予も許されない。いつ黒騎士の気が変わらないとも限らないのだ。黒騎士が本気で二人を殺しにかかった時、志貴は二人を庇いきることが出来るかはわからない。 そもそも、この黒騎士は実直な融通の効かない性格であり、今回のような反応を取ることが例外中の例外なのだ。今は一刻も早く、この だというのに、 「なぁ、殺人貴。儀式が発動したよ。地上の人質は、誰一人として助からなかった」 この男は、それでもなお、言葉を止めようとはしなかった。 「……そうか」 志貴の顔に微かな陰りが差す。 やはり、という思いが先に来る。凄まじい魔力が走り抜けた時、そんな予感はしていたが――。 「知っているか? お前があの大空洞に至った時、魔法陣を殺しさえいれば、儀式は止められたんだ。……全ては後の祭りだがな」 「――その話は後だ。下らないことを議論している時間は無い。お前たちは先に」 「下らない話ではない」 重く押し殺した声に、思わず口を噤む。振り返らざるとも、衛宮士郎が怒りに震えているのが解った。 「そういう意味で言ったんじゃない。とにかく、今は時間が無いんだ。これ以上、被害を広げる気か?」 「まぁ、待て。そう時間はかからない。聞けよ、殺人貴」 志貴は返事をしなかった。この問答に、意味があるとは思えない。 「既に、『聖杯』の出現は観測されている。真祖の姫にしてもそうだ。儀式を止めるため先を急いだアレが今、どういう状態にあるかは容易に想像が付くだろう」 「……何が言いたい」 「もう、何もかも手遅れなんだよ」 どこか投げやりな声。 押し殺していた感情が爆発し、顔が怒りに紅潮する。 怒りに任せて振り返り、 「ふざけるな! それが何だと――」 そして、見た。 「つまり、お前はもう用済みと言うことだ」 宙に浮かぶ無数の刀剣――その切っ先が、ひたと自分の背中に向けられているのを。 「士郎!? 何を……!」 声を上げ、士郎の背中に手を伸ばす。 しかし――遅かった。突き出した腕の動きに合わせて、無数の刀剣が無防備な殺人貴の背中へと降り注ぐ。 瞬く間に起きた出来事だった。 石床には無数の刀剣が所狭しと突き刺さり、微かに覗く黒装束からは、夥しい量の鮮血が流れ出している。 どうして? 戸惑いながら見上げた士郎の横顔――。思わず息を飲む。串刺しにされ、地面に磔になった殺人貴を士郎は、 「近いうちにお前は世界の敵になる。一足先にここで眠れ。殺人貴」 薄い笑みを浮かべて見つめていた。引き攣るような吊り上げられた唇。朱色に輝く瞳は、凛がこれまで見たどの彼とも違う輝きを放っている。 「貴様――!」 一拍の間を置いて放たれた怒号。首を巡らせると、そこには、 「ここで契約を持ちだすか、エミヤ……!」 怒りに顔を染めた、黒騎士の刺すような視線があった。 「何を憤っている。墓標が一つ増えただけだろう? 黒騎士。俺は自分の役割を演じたまでだ」 「ここに来て、『契約』を持ちだすのか……!」 「お前こそ、月蝕姫の意思に背くのか?」 「っく……」 黒騎士は苛立たしげに口を噤み、士郎を呪い殺しかねないほどの凄まじい目で見つめていたが、やがて、くるりと背を向けた。 「興を削がれた。死にたくなければいね」 冷たい声で言い捨て、奥の玉座へと歩き出す。 「ふん。逃がさんぞ」 無防備な背中を曝す黒騎士を見据え、士郎は両手に陰陽の双剣を投影する。 殺気を向けられても、黒騎士は振り返りもしない。士郎は嘲るように口の端を歪め、 「殺人貴が拮抗状態を保っていたんだ。俺にだってその程度の役割は」 独白のように呟く。足を開き構えを取ると、僅かに身を屈め、 「がっ……!」 その口から、黒い血液を噴き出した。 「……な?」 浅黒い顔に、驚きと戸惑いの色が浮かぶ。何が起こったのか解らないと言った表情を浮かべたまま、士郎は崩れ落ちるように地面に膝を突いた。 震える体を抑え、顎を下げる。士郎は見た。横一文字に斬り裂かれ、滑りつく血を噴き出す自身の胸元を。 「なん、だと?」 視線が彷徨うように動く。やがて揺れるが瞳が、抜き放たれ天を突く魔剣の異形の刃を捉える。そこでようやく、自身が黒騎士に斬りつけられたのだと理解した。 斬られた本人でさえ気付かぬほどの、神速の抜刀――。驚きに目を見開いたまま、士郎はゆっくりと前に倒れ込む。 「殺人貴の代わりを貴様が務めるだと? ふざけるな……ッ! 思い上がりも甚だしい!」 「……士郎?」 ぽつり、 漏れる凛の呟き。ゆっくりと近づき、その身体を助け起こす。 「なによ、これ」 胸元を横一文字に奔った傷は肋骨を切り裂き、内臓にまで達していた。血液は流れ続け、留まることを知らない。 身体が異常に重たく、そして冷たかった。血液でぬめる手で、何とか頭を抱き抱える。 「……士郎?」 首を支え、恐る恐るその浅黒い顔を覗き見た。戸惑いの形に歪んだ士郎の顔。曖昧に空いた口からは、いつもの皮肉の言葉が漏れることは無く――。 その目は、既に焦点を映してはいなかった。 「いやぁぁぁ――ッ!」 凛の慟哭の叫びが高く、魔性の森に木霊する。 辺りを覆う、むせ返るような血液の臭い。士郎の身体を抱き、凛は意味の成さない言葉を叫び続ける。 出現した『聖杯』が持ち主の願いを投影し、世界を塗り替え始める。それまでの常識が歪み、壊され、新たな常識に書き変わっていく。 こうして、彼女たちの、あるいは彼らの聖杯戦争は幕を降ろした。 命が砂のように、両手から零れ落ちていく。 ひたと寄り添う死の感触をそこに感じながら、それでも衛宮士郎は考えていた。 それは、生涯において常に抱き続けた疑問。全てを賭け、なお答えに辿りつけなかった問いについてだった。 何度も繰り返してきたように、再度、自問する。 ――どこで間違ったのだ。どうして、こうなってしまったのだ。 気づけば、剣の山を歩いていた。 見渡す限りの焦土を埋め尽くす、担い手のいない刃の切っ先。それらの中を、ただ歩く。 歩く。 ひたすら真っ直ぐに。一歩を踏み出すたびに、意識が黒く塗りつぶされていく。迫りくる闇。闇の中は、様々な人々の怨嗟の声で満ち溢れていた。 ――止めろ。 叫ぶ。 ――どうして俺を責める。 呻く。喚く。全てが闇に飲み込まれ、消えていく。 俺は、ただ願っただけなんだ。ありふれた、どこにでもある願いを。 薄れていく意識。頭に浮かんだのは、いくつもの約束を交した、帰りを待つ彼女の姿。 いったい、どこで、何を間違えた。 俺はただ守りたかっただけなんだ。なのに、どうしてこんな――。 その問いに、答えを返す者などあるはずもなく。 衛宮士郎の意識は、深い闇に飲まれ、見えなくなった。 第二部 聖杯戦争 了 |
あとがき。 どうも皆さまこんにちは。お世話になっております。舶来でございます。 長い時間がかかりました『虚言の王・虚空の月 第二部「聖杯戦争」』、終了でございます。 といっても、まだ仮更新の状態なので、完全に終了したわけではないのですが……。って、痛っ! ちょ、石を投げないで! み、皆さんの仰りたいとことはよく解ります。「ふざけるな! 舶来てめぇ!」という声は更新する前から聞こえていました。しかし、この第二部の結末は描き始めたころからおよそ、決まっていたことなのです。 こんな結末(といっても、まだ第三部がありますが……)となったのは、プロット段階の問題と、それから30%くらいが、以前に「このSSは今後、志貴とアルトルージュのカップリングがあるんですか?」というメッセージを下さった方のせいなのです。どうしてって? 特に意味はありません。 あとがきは実は今後、一章ずつ振り返るつもりなので、かなりの量を書くことになると思うのですが(振り返ると、自分の勉強になりますからねっ)、今日はこの辺りで終わらせていただきたいと思います。 ただ、最後にこれだけは言わせて下さい。 28.英雄足り得る条件とはU Bの出来の悪さは納得がいかん!! 今のところ、書きなおすつもりはないんですが、どうしても納得がいかなくて悲しくなります。 どうして第二部最大の見せ場があんだけ盛り上がらないのか。原因はおおよそ解ってきているのですが、ただただそれが心残りです。 愚痴ついでに、第二部で失敗したことベスト3を挙げさせていただきます。 1.長さ(特に白騎士VS士郎のシーン) 2.『28.英雄足り得る条件とはU B』の出来の悪さ 3・白騎士との戦闘に入ってからラストまでの物語の長さの見余り それから、SSを書くスタイルが不味い時がありましたね。 心機一転、初心に戻って、誠実に二次創作に向き合っていかなければならないですね。 今年は書き始めて五年目にして、第一部の同人誌化が実現しました。買ってくださった方、応援して下さった方、また協力して下さった方には、この場をお借りしまして、再度、心より御礼を申し上げます。 本当に本当にありがとうございました。 最後に、今後の展望を少し。 優先順位は以下の通りで考えています。 @もう少しまともな後書きを書く(ウェブ拍手の返信もここで)。 Aいただいたメールの返信をする。 B書きかけの小説を完成させる。 Cこれまでアップした仮アップのものを推敲する。 D第三部の細かいプロットを考える。 こんな感じで考えています。推敲が終わったら、また、全自動リンクスさんにもお世話になろうかな。 第三部については、舞台設定と登場人物、それと結末くらいしかまだ決めていなかったりします。 特色としては、月姫寄りの展開から、Fate寄りの展開になりそうです。主に名前だけ出てきていたキャラが多く出てくる感じになるのかな……。 長さについては、第二部の半分以下、第一部以上、といった感じでしょうか。 第二部であったような大掛かりな仕掛けより、心理面に特化した動きが出てくる感じですかね。僕が一番の課題だと思っている部分です。まぁ、今から五年以上前に掲げた課題ではありますが……。そういえば、この時点で書き始めてから五年が経ってしまいました。二年で書き終わるはずとかふざけたことを言っていた自分を、思いっきりぶん殴ってやりたい気分です。 ウェブ拍手については、返信が滞っており、すいません。あんまり素直に答えるとネタばれになるので、第二部が終わるまで返信を控えておりました。これから思う存分、返事をさせていただきたいと思います。 それでは皆様、第三部「復讐の騎士」でお会いいたしましょう。 どうか呆れずに、また覗いて下さると嬉しいです。 ではでは。ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。 取りとめの無い話で申し訳なかったです。 面白いモノが書けるよう、頑張ります。 ですので、少しエネルギーを分けて下さい……。SSだけじゃなく、日々の生活の活力にもなります↓ |