12.口承詩カレワラ




 カトリックにおいてカズラと呼ばれる金の刺繍の施された白い法衣が、闇の中で花のように揺れる。
 メレム・ソロモンは彫像から飛び降りると、親しみの篭った笑みを凛へと向けた。
「来てくれて本当に嬉しいよ、凛。エミヤのことだから、何も言わずに一人で来ちゃうかも、って思ってたから」
 カチ、カチ、と、その指に連なった銀の指輪が音を立てる。
 少年の言葉に、士郎は嘆息気味に呟いた。
「そのつもりだったんだがな……。いや、まぁ、それはいいんだが」
 ちらりと隣に並ぶ凛を覗き見て、おもむろに口を濁す。凛から注がれる視線が痛い。
 士郎から視線を切ると、凛は予期せぬ待ち人に目を瞬かせた。
「メレム・ソロモン。……どうしてあなたが」
「凛」
 口を開いた凛を、メレムが静止した。
「僕のことはメレムでいいよ」
 満面の笑顔で微笑みかける。
 緊張に身を強張らせていた凛は、思わず拍子抜けしてしまった。
「……それじゃ、メレム。あなたがどうしてここに? 聖杯が観測されたのは東欧でしょう。こんな所で油を売ってる暇なんかあるのかしら?」
 厳しい口調で尋ねると、メレム・ソロモンは僅かに首を傾げ、
「ん? どうして? それは可笑しな質問だね」
 少年の姿にはあまりにも不釣合いな、嘲笑染みた笑みをその顔に浮かべた。
「ここに居るっていうことは、君達も見たんだろう? あの映像」
 深い闇を孕んだ瞳が、糾弾するように眇められる。
「……う」
 しまった、と凛は思った。
 先日、彼女達が見たアルトルージュ・ブリュンスタッド一派の映像。あれは、士郎がフランス軍からの不正な横流しによって手に入れたものである。フランス軍は聖堂教会のお抱えの軍隊。メレム・ソロモンがあの映像を見ていないはずが無い。
 ――失言だった。
 凛は臍を噛んだ。これでは藪蛇だ。
「……」
 言葉に詰まる。
 その様子を見て、メレム・ソロモンは口元に小さく笑みを浮かべた。
「――別に気にしてないよ。エミヤに軍の情報が渡っているのは前から知ってたし。今回の件に限っては、魔術協会まで知られなければ実害は無いからね。僕が直々に見せてあげても良かったくらいだよ」
「……そう言って貰えると助かるわ」
 気を悪くした風も無いメレムの様子に、凛は胸を撫で降ろした。
「お互い、挨拶はそのくらいにしておこうか。それで、こんな夜更けに招待状まで寄越して呼び出すとは、一体何の用だ? メレム・ソロモン」
 双剣を手にしたまま、士郎は少年に相対した。油断無く構えたその姿は、騎士の威風である。
「用件なんて一つしかないじゃないか。君だって、わかってるから来たんだろう?」
 士郎の考えを見透かすように、唇の端を吊り上げ、メレムは嗤う。
「それに、今夜はレディーもいるんだ。招待状くらい出さないと失礼にあたるってものさ」
「……相変わらずの狸だな」
「狸? 君の国の表現はいまいちわからないなー?」
 士郎の両手に握られた双剣が、淡い光の粒子となって闇の中に霧散する。敵意の感じられない二人の様子に、凛は握りこんでいた宝石を静かに懐に戻した。話している言葉は剣呑だが、お互い敵意は無いらしい。
「……話に入る前に、一つ確認しておきたいことが在る。二週間ほど前、フランス軍絡みの事件で“エミヤシロウ”に警察機関から手配が回ったんだが……君の仕業か?」
「うん」
メレム・ソロモンは涼しい顔で答えた。そこに、罪悪感を感じている様子は微塵も見えない。
「……」
「何さ。言いたいことがあるなら言えばいいのに」
 じとっとした、絡みつくような視線を受けて、メレムは不快そうに顔を顰めた。
「あれでお互い貸し借り無し。悪くない話だと思うけど。何か不満でも?」
「……いや」
 士郎が恨めしげな顔で口を噤んだ。メレムは自分の悪戯の効果の程を推し量るように、にやにやと観察するような視線を士郎に向けている。
「なんて顔してるんだい、エミヤ。そんな捨てられた犬みたいな顔をして」
 すっかりご機嫌な様子のメレムに、士郎が渋面を作る。
 明らかに、からかわれていた。しかし、この手のやり取りは向こうの方が数段上手だ。噛み付いてもいなされるのは歴然である。
 士郎は憮然とした表情で口を閉ざし、
「――ちょっと待て。遠坂、何故君まで笑っている?」
 隣で腹部を押さえ笑いを堪えていた凛を恨めしそうに見つめた。
「気にしないで。ちょっと可笑しかっただけだから」
 姿だけとはいえ、子供にいいように弄ばれて渋面を作っている士郎の姿がツボに嵌ったらしい。
 士郎は、拗ねたような顔で凛を睨みつける。
「……好きにしろ」
「――面白いなぁ、君達は」
 ニヤニヤと笑いながら、メレムが言った。そのまま凛に歩み寄ると、耳元に唇を寄せて囁く。
「思ってたとおり、凛とは気が合いそうだ」
「それはどうも」
 天使の様な顔で微笑むメレムに、凛も最上級の笑みで応じる。祖の一角を担うという、この少年の扱いに早くも慣れてきた凛である。
「エミヤはからかいがあるからね。飽きない、っていう点では僕の同僚に引けを取らない位だ」
 もちろん、誉め言葉だよ。と笑って。
 メレムは凛の隣を横切ると、つかつかと壁際に向かって歩き出した。
「埋葬機関に入らない? 僕が推薦してあげるよ」
「断る」
 冗談めかして言うメレムに、士郎は厳しい口調で答えた。
「それは残念。うちの局長も君を気に入ると思うんだけどなー。勿体無いなー」
 ちっとも残念そうに感じない口調で呟く少年を、士郎は疲れたような顔で見つめた。彼はこの少年がどうも苦手だった。
 そのまま凛の隣を横切ると、件の巨大な怪鳥の描かれた絵画の前で立ち止まる。、かつん、と乾いた靴音が館内に響いた。
「さて。そろそろ本題に入ろうか」
 そう言って、メレム・ソロモンは絵画の前でくるり、と振り返った。
 闇に包まれた館内を見渡し、周囲に所狭しと並べられた美術品の数々に目を細める。
「二人は美術館は好きかな?」
「ええ……、嫌いじゃないわ」
 少年の問いに、凛が答える。士郎は肯定も否定もしなかった。
「僕は美しい物……特に、”秘法”って呼ばれる物には目が無くてね。同僚には秘法コレクターなんて呼ばれることもあるくらいさ。エミヤとこうして話をするようになったのも、実はその辺の縁で……」
「メレム」
 遮るように、士郎が言った。
「そんな話はいい。早く本題に入ってくれ」
「だから、これが本題なんだけど。――まぁ、いいや。エミヤとの馴れ初めは今度、ゆっくりと話してあげるよ」
 片目を閉じてメレムが笑う。不機嫌を通り越して苛立ちさえ浮かべ始めた士郎を横目に、凛は苦笑しながら小さく頷いた。
「それじゃあ特別に、今日は要点だけを簡潔に話すことにするよ。まず始めは……そうだな。凛は、世界三大叙事詩って知ってる?」
「……三大叙事詩?」
 メレムの口から飛び出した単語に、凛は小さく首を傾げた。もちろん、言葉の意味が解らなかったのではない。何故その言葉をメレムが口にしたのか疑問に思ったのだ。
「えーっと、確か……」
 凛は八年前の聖杯戦争時、呼び出された英霊の真名を見極めるために、あらゆる神話・伝承に目を通していた。当然、三大叙事詩とて例外ではない。
 深く黙考し、奥深くに眠っていた記憶を引っ張り出す。
「イーリアスと、ラーマーヤナ、それから……えっと―――何だっけ?」
 いつもはするり、と出てくるような言葉が出てこない。
 助けを求めるように、ちらり、と士郎の方を覗き見る。しかし、士郎は俺に聞くな、と言うように肩をすくめて見せるだけだった。
「ごめんなさい。ちょっと出てこないわ」
 降参、と諸手を挙げて見せると、メレムは大げさな仕草で肩を落とした。
「それは残念。肝心なのが出てこないか。君なら知ってると思ったんだけどな」
 大した落胆も感じさせない軽い口調で呟くと、士郎の方を流し見る。
「ん?俺は、」
「心配しなくても、エミヤは最初から当てにしてないからいいよ」
「……」
 士郎が、何か言いたそうな顔でメレムを見下ろす。しかし、結局何も言わないまま、硬く口を引き結んでしまった。
 メレムは、ニヤニヤとその様子を眺めていたが、不意に顔の前に手を掲げると、人差し指を一本立てて見せた。
「ギリシャの”イーリアス”インドの”ラーマーヤナ”そして、フィンランドの”カレワラ”これが、世界三大叙事詩と呼ばれるものさ」
 指折り数え、計三本の指を立てると、メレムは凛たちから視線を外し、絵画の方へと向き直った。凛もメレムの視線を追って、中空の辺りを仰ぎ見る。
 そこには、色彩豊かな一枚の絵画が、白いスポットライトに照らし出されていた。
「―――」
 人の顔をした巨大な怪鳥が、小さな小船を襲っている。怪鳥と小船には、それぞれ槍や斧といった武器を持った五人ほどの男が乗っており、船先で剣を持った老人が、怪鳥を威嚇するように立っている。巨大なそれは、二つの勢力の闘争の一場面を描いた絵画であるようだ。
 そこには写実性の高い風景画や人物画の美しさは存在しない。例えるならそれは、幻想性や神秘性を欠いた、宗教画のような印象を観る者に与える絵画だった。
「これはその三大叙事詩”カレワラ”の一場面。サンポと呼ばれる人工物を巡って、”不滅の賢者ワイナミョイネン”と”強大なる魔女ロウヒ”が争う姿を描いた絵画さ」
「……サンポ?」
 聞きなれない言葉に、士郎が首を傾げる。
「あ」
 口元に手をあて、考え込むように俯いていた凛は、はっ、と顔を上げた。
「―――思い出した。光り輝く人工物”サンポ”。持つものに幸福を授けるという、人の造った何か。……まさか、」
「そう。そうだよ。凛」
 メレム・ソロモンは背を向けたまま、
あの紛い物アルトルージュ・ブリュンスタッドの目的はソレだ」
 どこか冷めた盲い声で断言した。
「……確証は?」
 士郎が尋ねた。
 メレムが振り返る。その顔には、三日月の様な盲い笑みが貼りついている。
「その前に、僕からも一つ確認したいことがあるんだけど。答えてくれるかな?」
「ああ。構わない、が」
 不吉な雰囲気に気圧されるように、士郎が答えた。
「昨日の夜、ここより西の小さな村が全焼し、住人達が皆殺しになった事件があったんだけれど、知ってた?」
「ああ」
「それじゃあ、その場に居合わせた死徒を殺したのは、君たち?」
「……そうだ」
 少し躊躇った後、士郎は正直に答えた。
 凛も頷く。隠しておく必要も無い。メレム・ソロモンは二十七祖の一角を担う死徒そのものであると同時に、死徒狩りを生業とする機関員でもある。死徒を屠ったことを話しても、万が一にも機嫌を損ねたりはしない……はずだ。
「……」
 僅かな沈黙。緊張から、凛は汗ばんだ手の平を握り締める。
「――そう。やっぱりね」
 突然、メレムがにこり、と笑みを浮かべた。
「それじゃ、森の奥にあった礼拝堂で子供達を助けたのは凛だね?」
 弾むような声で、真っ直ぐに見つめてくる。
 凛は反射的に首肯する。同時に、不吉な空気が煙のように拡散していくのを感じ取り、静かに胸を撫で下ろした。
「ええ。けど、どうしてそのことを?」
「町の浄化作業は聖堂教会がやったからね。記憶を消す前に、救助者から事情聴取は一通り終えている」
 凛は思わず唸った。
 やはり、こういう時は組織力の違いを痛感する。情報戦では郡体に敵わない。こうなることがわかっていたなら、魔術協会からバックアップを得られるような体制を整えておくべきだった。
「あの死徒が紛い物アルトルージュの差し金だった、っていうのは、君たちだって気付いてたでしょ?」
「ああ」
「それじゃあ、奴等の目的が何かは?」
「……いや。話を聞く前に、二体とも斃してしまったからな」
 士郎が隣に立つ凛を流し見る。凛は気まずそうに目を逸らした。
「それじゃ、何か気付いたことは無かった?可笑しいと思ったことは?」
「と、言うと?」
「――例えば。あの小さな村に、何故二つも礼拝堂があったのか、とか」
 二人の反応を伺うように、メレムが言った。
「そういえば、そうだったわね。けど、それが何か・……」
 凛は、昨日の出来事を思い出していた。
 森の奥に隠すように立てられた、二つ目の礼拝堂。十字架一つ立っていない、石造りの祭殿を。
「あの村にあった二つの礼拝堂のうち、一つは福音ルーテル教会……。つまり、僕ら聖堂教会が管轄する礼拝堂だ。正確に言うなら、ローマ・カトリックでは無いんだけどね。埋葬機関に限って言えば、そんなことは些細な問題だ」
 口を濁すように、メレムが言う。
 凛はすぐにピンと来た。
 そう言えば、この国の国教はプロテスタントだったか。ということは、あの教会で屍鬼グールに襲われていたのは、神父ではなく牧師だったということになる。
「問題は二つ目の礼拝堂さ。森の中にひっそりと隠されていたあの礼拝堂は、一体何なんだろうね? イスラムのモスク? もちろん違う」
 かつ、かつ、とメレムの歩き回る足音だけが、静まり返った美術館に反響する。
「答えを言ってしまうと、あれは、古代フィン人が伝える口承詩、カレワラの神“ウッコ”を祀った祭壇だったのさ。ウッコの神格は蛇と雷。祭壇の入り口にこの神を象徴するレリーフが飾られていたのには気付いたかな?」
 ――言われてみれば、入り口にブロンズのレリーフが掲げられているのを見た記憶がある。凛は思わず額に手を当てた。
 思っていた以上に頭に血が上っていたらしい。こんなことも見落としていたなんて。
「何の特徴も無い小さな村が襲われた理由は、そこにあったのさ。あの町で、死徒達はカレワラに伝わる、あるモノを捜していた。簡単に言えば、願望機としての側面を持つ”サンポ”を手に入れる方法を探していたんだ。カレワラは口承詩。人伝えに語って聞かせる民族詩だ」
 メレムは朗々と話を進めていく。
「十九世紀にカレワラは人の手によって、『源カレワラ』として書物に纏められている。けど、それでは不完全だったんだ。収集された資料には、明らかな欠落があった――。結果的に、抜け落ちた部分は、編者の創作で埋められ、伝承は正しく書物に記されなかった。核心に触れる部分は禁忌として、そのコミュニティで選ばれた司祭だけに語り継がれ、口承詩としてひっそりと現代まで伝えられて来たってわけだ」
 キリスト教の布教により、フィン人の伝承が語られなくなったということは、凛にも容易に想像できた。
 キリスト教は唯一神ゆえに、古くから在る土着の神々を許容しない。カレワラにおける神々を、表だって祀るわけには行かなかったのだろう。
 祭壇は町の外れに立てられ、叙事詩の伝承は町の中でひっそりと語り継がれていったのだ。遥か昔から、現代に至るまで。
 口承詩は文献などで残るものではないから、外部の人間が奪い取ることは出来ない。語り手を直接見つけ出し、話を聞きだす必要がある。形として残さないから、秘匿性は高いといえるだろう。
「――秘匿性が高い?まさか、」
 あの死徒の魔眼は、もしかして――!
 にやり、と。
 凛の表情を見て、メレムが嗤った。
「察しがいいね。君の考えたとおりだ。町を襲った死徒が魔眼使いだというのは、実際に戦った君達が知っているだろう? いかに秘匿しようとも、魅了の魔眼なら相手の意思に関係なく情報を引き出すことが出来るというわけさ」
「……話はわかる。だが、確証が無い。そのような伝承が行われていたなどと言う明確な証拠も、アルトルージュ・ブリュンスタッドの目的が、その伝承の収集だという証拠も何も……!」
 呻くように、士郎が言った。認めたくないのだろう。口承詩の収集の為などという理由で、あんな惨劇が引き起こされたなどと言うことが。
 しかし、メレムは涼しい顔で、その推論を確証へと導く。
「教会で保護された子供達が、司祭が問われるままにカレワラの口承詩を話していたのを聞いていたそうだよ。――凛が保護した子供達だね。あの紛い物も語り手を捜すのに随分苦労していたようだけど」
「……ッ」
 その結果が、あの虐殺か。凛は唇を噛み締める。
「そんなの、勝手過ぎる……!」
「派手に暴れてくれたよ。昨日までに五つの町が地図から消えているからね。節操が無いにも程が在る。少しでも怪しいものがあれば、見境なしだ。流石に教会も隠し切れないよ」
 毎日のように死徒による襲撃・虐殺事件が起こっているということは、凛たちも知っていた。
 もちろん公にはなってはいない。しかし、凛と士郎がフィンランドに渡ってから今日で五日目になるが、およそ一日一件の割合で、小規模の町が一つ無くなるほどの虐殺が繰り返されている。
 昨夜、凛たちが死徒が町を襲っている所に出くわしたのは、決して偶然などではない。これまで襲撃されていた町の情報から、次の被災地を推測したのが的中したのだ。
 ―――だけど、それでも救いきれなかった。
 凛は唇を噛み締める。
「聖堂教会で止めることはできないのか?」
「ウチからも代行者が随分と借り出されてるけれど、後手後手に回っているのが現状さ。……この国ではこれが限界かな。むしろ、今のところ被害が出ているのはこちらの方、」
 不意に、滑らかな語り口で進んでいたメレムの口上が止まる。同時に、
 ごとり、
 背後の闇の奥で突然、彫像の倒れる音が響いた。
「やれやれ。思ったより早い到着だね」
 弛緩した声で、メレムが呟いた。
 凛と士郎が、音のしたほうへと素早く警戒の目を向ける。闇に慣れた凛の目が、闇に潜む人形を捉えるのに、さほど時間はかからなかった。
「……いる」
 ……鼻に付く異臭に顔を顰める。それは昨夜嗅いだばかりの臭気。
 匂いに身体が拒否反応を示す。胃液がせり上がってくるのを堪えて、凛は嘆息した。
 ようやく匂いが取れてきたのに、これでは朝食を美味しく食べるのは難しそうだ。
屍鬼グール・……!」
 士郎が忌々しげに呟く。
 美術品の陰に紛れるように、六体の屍鬼グールが、空洞と化した伽藍の瞳で凛を見つめていた。
「――まさか。メレム、貴様……!」
 弾けるように振り返った士郎の双眸が、メレム・ソロモンを射抜く。
「……」
 槍の穂先の様なその視線を受けてなお、少年がその顔に浮かべた凍えるような冷笑は、微塵も揺らぐことは無かった。



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